審査員選評を読む
更新日:2025年3月7日
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率直で、活きいきとした命の躍動を感じさせる言葉/川中子 義勝
今回の選考では、比較的単純で、しかし活きいきと語りかける作品に注目が集まった。最優秀賞を得た足立悦男さんの「地引き網」はその典型。「網引きに行かいや」。地方言葉(方言)の力強い響きがまず心を捉え、漁民の生活感溢れる描写が惹きつける。跳ねる魚を「命が跳ねる」と受けとめる結びへと、詩の躍動感が収斂してゆく。優秀賞は二人。初めに、石川小傘さんの「銀河星船」は、生死の境にある病人に付き添う状況を述べる。「夜を超えていく船」に病室を準える、その透明感溢れる描写が印象的。詩全体を貫く静謐で明澄な表現は、死すらも希望の相で受けとめさせる。優秀賞のいま一人、狭間孝さんの「天のデジタル」。この詩も単純明快。前半、母と見た螢の乱舞や、自身で蚊帳に放した経験の描写は美しい。昔を懐かしく振り返る想いは、後半で、テレビ画面の戦場の夜空を満たす発光体に結ばれる。眺めの一致から引き起こされた驚きと違和感が訴えかける。ふるさと賞の片山佐依子さんの「板倉堰」は、郷土の景色への思い入れを綴る。三迫川から分かれた堰用水の「かつて」と「いま」の姿が対比される。自然の情景の豊かさは、護岸工事によって変わってしまった。しかし変わらないものを水の音、風の音に聴く。不変は普遍に通じる。二人の若者を審査員奨励賞に選んだ。まずは十八古米さんの「森」。昔、本当の自然と偽のそれについて語っていた父と山登りをともにする。その経験は、父の本当の姿を知るとともに、(父の言葉どおり)本当の森に出会うことをも導いた。父と森が真実の姿を相互に示し合っていると直観的に掴む。その表現は的確である。もう一人は河埜綾音さんの「変わりたい」。変わらない日常のなかで変わらぬ私。日常の変わらぬ進行は大切だと分かっているが、「でも私は変わりたい」。青春の希望そのものを、詩の結尾で直截に表明。その言葉も単純明快で感動を誘う。
いのちと向き合う姿勢に共感/原田 勇男
全体にいのちと向き合う作品群に心打たれた。生命賛歌だけではなく、理不尽な戦争や死病に苦しむ人、亡くなった肉親への深い思いがこもった詩篇に注目した。入賞しなかった作品の中にも、未来への萌芽を感じた。足立悦男さんの「地引き網」は、漁師や女たち、子どもたちまでも網で魚を浜へ引き上げる躍動感がたまらなかった。人間だけではない。網の中で跳ねる魚のいのちも光輝いている。効果的に使われる島根県の方言も風土匂いをふんだんにふりまく。このように躍動する生命感が作品全体にあふれ、最優秀賞にふさわしい作品だと思った。
優秀賞は二篇で、石川小傘さんの「銀河星船」は、死線をさまよう患者とそれを見守る付添人や看護師、医療機器が作動する病室の情景を客観的に描写する。感情を交えず表現も斬新な言葉遣いで現代詩らしい作風が印象に残った。迫りくる死と戦う肉体のいのち。その緊迫した攻防を見事に表現している。
狭間孝さんの「天のデジタル」は、ダムの奥で年老いた母と木々に光る幻想的な蛍の群れを眺めながら、テレビで観たドローン攻撃のデジタルな光を思い出した。この不条理な現実に対する批判が鋭く胸を突き刺した。
ふるさと賞に選ばれたのは片山佐依子さんの「板倉堰」。宮城県北の金成沢辺から石越まで流れる三迫川の支流の今昔を見つめている。さまざまな植物や昆虫が川辺に生息していた昔から、堰の役割を果たす現代の故郷の情景を情緒豊かに表現した作品だ。
審査員奨励賞の十八古米さんの「森」は、父との初登山で「森の厳かで壮大な自然」を知り、これまでと違う父の姿と出会った感動を書いている。同じく河埜綾音さんの「変わりたい」は、毎日自転車のペダルを踏んで逆風を受けながら川のほとりを通っている。その日常に変化はないが、「でも私は変わりたい」という最終行が学生らしくてさわやかだ。二人とも十八歳。楽しみである。
生命の躍動感/佐々木 洋一
今回は四十一編の作品を最終審査の対象に選んだ。どの作品も心に引っ掛かるものがあり、どれを推すべきかとても迷った。まずそのことを告げておきたい。最優秀賞の足立悦男「地引き網」は、単純明快で活力溢れる作品。皆で地引き網を曳く過程を描いた生命の躍動感がすばらしい。自然と人間が一体となった姿が印象的である。
優秀賞の石川小傘「銀河星船」は、病室の患者に付き添いながら感じた現実とそこから立ち現れる生命の鼓動。終盤のイメージの拡がりがとてもいい。同じく狭間孝「天のデジタル」は、むかしと現在、アナログとデジタルとの対比により心の葛藤をうまく捉えている。実体験がなく、映像や情報に左右されやすい戦争を描くことはとても難しいが、ここでは明確に切り取っている。
ふるさと賞の片山佐依子「板倉堰」は、地域に根付く三迫川の堰の変化をうまく捉えている。文語体が少し気になるところがあったが、さりげない情景に心がなごむ。ふるさと賞は栗原市在住者が対象であるが、他には「道」「届け ママの思い」も同賞にふさわしいと思った。
審査員奨励賞の十八古米「森」は、父親と森で一緒に過ごすことで、いつもと違う父親の一面を発見する。描き方としては特別な感じはしないが、たんたんとした歩みの中に、父親への細やかな心情がよく出ている。同じく河埜綾音の「変わりたい」は、平凡な日々を過ごす中で、将来に対する心の葛藤を的確に表現。若者らしい強い思いを感じた。どちらも十八歳で、これからが大いに期待できる。この他、「母の愛」「写真」「滝に呑まれる」の作品にも若々しい魅力がある。是非書き続けて欲しい。
日々の暮らしをていねいに見る/三浦 明博
日々の出来事から得た発見を書いたものが多かったように思う。最優秀賞・小野寺剛志さん「小さく使い古された鉛筆のように」は、毎日の心境を「喜」や「苦」等で表す一本の鉛筆にたとえ、自分も同じように真剣に生きればいいと気づいた詩。「喜」の字は一個でも、でっかく書かれているだろうとの一文に希望を見た。最優秀賞・中川泰明さん「帰り道」は、外れた天気予報をグチり、雨の学校帰りになじみの薄い級友から誘われ戸惑いつつ一緒に帰る中、ラストで虹を見て声が重なり二人で笑う場面がいい。優秀賞・若狹早さん「二つのねぐせ」は、自分のことが色々できるようになったが後ろのねぐせだけが見えず、お母さんもそれは同じで、毎朝二人でくしで直し合うというほほえましい詩だった。特別賞・桑原仁さん「夏の田園。のどかな祖父母家。」は、夏休みに雲海が見える祖父母家への帰省時の情景を描き、雲海の下に広がる村が海中都市のようだとの表現が景色を想像させる。特別賞・畑美明さん「小鳥」は、草むらで見つけた弱ったすずめの子に水をあげようと戻ったら姿がなく悲しくなるが、飛び立った二羽のすずめを見て、あのすずめであってほしいと願うところがいい。特別賞・江口美咲さん「大すき、よみきかせ」は、パパと一緒に読み聞かせをするのを楽しみにしているという詩で、物語の人になりきるために知恵を絞るようすが目に浮かぶ。
審査員奨励賞・大場直樹さん「東北のジャングル」は、家族でサファリパーク的な所へ行った際の事を書いたもので、間近で見たライオンやラマなどのリアルな行動をよく見て描いている。審査員奨励賞・杉世菜さん「若人の愛」は、いくつもの両極端な感情の間を揺れうごく若人の気持ちを書いており、ラスト「愛は、いつしか疲労で去る」の脱力感あふれる1行が面白かった。
向上の一途/渡辺 通子
第一次審査を通過した二十八編は、全国の小中学生から応募のあった甲乙つけがたいレベルの高いものであった。一方で、観念的で、技巧に走る作品も増えている。自分の眼でしっかりと見、自分の心を照射して思いをめぐらしている作品、自分の腹の底から湧きあがるような言葉でもって表現した作品を中心に選ぶことにした。つぶやきのような小さな声であっても、作品の持つ力強さは読み手に伝わってくる。最終選考に残った作品は、いずれも白鳥省吾賞にふさわしい令和時代に生きる小中学生の人間愛や自然愛が詠まれたものである。コロナ後を生きる小中学生は、時に、人とのかかわりに戸惑い、自分の弱さを自覚しながらも、しなやかに時代に向き合って生きている。
最優秀賞の小野寺剛志さん「小さく使い古された鉛筆のように」は、一人の中学生がウェルビーイングな生き方を模索する姿を詩にした。自らの喜怒哀楽の感情を分析して描く。近頃の世の中は決して明るいものではないが、それでも懸命に、ひたむきに生きようとする姿が美しい。
優秀賞の中川泰明さん「帰り道」は、雨の中、さして親しくもない友人と下校する風景を詩にしたもの。二人の微妙な心の交流が描かれて秀逸である。若狹早さん「二つのねぐせ」は、登校の準備をする早朝の母と子のふれあいを巧みに詩にした。
特別賞の桑原仁さん「夏の田園。のどかな祖父母家。」は、自身のアイデンティティを大阪に置きながら、祖父母の住む田舎を訪ねることで自然の魅力や奥深さを発見する喜びを詠んだ詩。畑美明さん「小鳥」は、偶然見つけたすずめの子とのひと時のふれあいを詠んだ。江口美咲さん「大すき、よみきかせ」は、父と子の読み聞かせの楽しさを詩にした。
審査員奨励賞の大場直樹さん「東北のジャングル」は、サファリパークで出会った動物たちの様子を臨場感あふれる描写で生き生きと描いた。
その他、「夕日と反省会」、「君のあいさつ」、「アゲハチョウ」、「自然のタペストリー」も心に残る作品であった。