小・中学生の部【審査員奨励賞】カナカナの声に/菅原 詩
更新日:2024年2月26日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬省略
物憂げに聞こえるその声は、過去の記憶を現在にシンクロナイズさせる
あの日地下七千メートルから解放された膨大なエネルギーは
大地を震わせ、抗うことのできない圧倒的な自然の力を見せ付けた
五年前の暑かった日、初めて目にした巨大な爪痕の痛々しさと放出されたエネルギーの凄まじさ
深緑の中に浮かぶ土気色とカナカナの声
その日以来、カナカナの声を耳にすると、繰り返し呼び起こされるのが
海の青でも向日葵の黄色でもなく、山肌がむき出しの「あの光景」となった
時間の流れは、人々から記憶を奪っていく
大地震、大雨、猛暑、切れ目のない災害に、
「あの光景」は
東北の片田舎で起こった小さな事と片付けられてはいないだろうか
犠牲の大小に忘却が比例してしまってはいないだろうか
根を下ろした小さな種は、十五重の年輪を数えるまでに成長した
やがては森となり、いつしか痛々しい爪痕も
瘡蓋で覆われるかのように分からなくなるだろう
その時我々は何を思うのか
絶えず躍動し続ける相手に、記憶を奪われ続けた我々は対峙できるのか
今年もカナカナの声が聞こえてくる
私は「あの光景」が頭から離れないでいる
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬省略
カナカナの声に/菅原 詩
一日の終わりを告げるかのように、カナカナの声が一斉に鳴り響く物憂げに聞こえるその声は、過去の記憶を現在にシンクロナイズさせる
あの日地下七千メートルから解放された膨大なエネルギーは
大地を震わせ、抗うことのできない圧倒的な自然の力を見せ付けた
五年前の暑かった日、初めて目にした巨大な爪痕の痛々しさと放出されたエネルギーの凄まじさ
深緑の中に浮かぶ土気色とカナカナの声
その日以来、カナカナの声を耳にすると、繰り返し呼び起こされるのが
海の青でも向日葵の黄色でもなく、山肌がむき出しの「あの光景」となった
時間の流れは、人々から記憶を奪っていく
大地震、大雨、猛暑、切れ目のない災害に、
「あの光景」は
東北の片田舎で起こった小さな事と片付けられてはいないだろうか
犠牲の大小に忘却が比例してしまってはいないだろうか
根を下ろした小さな種は、十五重の年輪を数えるまでに成長した
やがては森となり、いつしか痛々しい爪痕も
瘡蓋で覆われるかのように分からなくなるだろう
その時我々は何を思うのか
絶えず躍動し続ける相手に、記憶を奪われ続けた我々は対峙できるのか
今年もカナカナの声が聞こえてくる
私は「あの光景」が頭から離れないでいる