一般（高校生以上）の部【審査員奨励賞】母の心、僕知らず ／瑞雲 旅人

受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬省略

母の心、僕知らず ／瑞雲 旅人

俺、今日の走りは完璧だったわ
そう、そういう時こそ気を引き締めないと
母が言う、お決まりのセリフ
母はなかなか褒めない
僕は褒められて伸びるタイプなのに
優勝したぜ、やった
おめでとう、そういう日こそまずストレッチ
いやいやここは飛び上がって喜ぶ場面でしょ
祝賀パーティー拓いてもいいくらいでしょ
なんだ、そのつまらない反応は
タイムが全然上がらないんだ
俺、陸上は向いてないのかな
……。
おいおいおい無言ですか
こういう時は甘えるなって叱るとか
そんな時もあるってなぐさめるとか
そういうのを待ってるんですが
僕の母は喜ばない母
波のない海のように冷静なハートの持ち主

先日のレースで記録係の母がカメラを忘れた
代わりに父が撮ってくれた僕の動画
大きな太い声で頑張れと叫ぶ声が聞こえる
ゴールが近づくにつれその声は絶叫に変わる
頑張れっ行けっ
やったよやったよ
誰よりも大きなその声はまぎれもなく母の声
お前の調子のいい時も悪い時も
いつも変わらずにいようと
いつもの気持ちで、いつもの調子で
お前がレースに臨めるようにと
なるべく冷静でいようとしてるんだよ
あれでもね、苦笑する父

僕の母は喜ばない母
ここで訂正
すごく喜んでいるけれど
冷静を装っている僕の母