一般（高校生以上）の部【審査員奨励賞】宝石の持ち主／内山 芽泉

受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬省略

宝石の持ち主／内山 芽泉

雨戸を閉めようと手を伸ばした先に君は居た
思わず声が漏れてしまう
ああ、今年もやられた
毎年必ずこの雨戸にやってくる
驚かしてやろうと言わんばかりだ
一歩間違えば即死   君は命知らずな奴
飛ぶことを知らずに死んだら
どんなに心残りになるか考えてごらんよ
いつからか我が家には
夏の雨戸注意事項がある
それが君の命を救った
ぺちゃんこの君なんて見たくない
そんなことお構いなしに羽化する君は
きっと歴代の雨戸好きと
同じ遺伝子を持っている
緑の木々を無視して
無機質な雨戸が好きなんておかしな奴
君の背中がうごめいて
私の背中にも何かが生えそう
ぞくぞくが止まらない
けれど虫嫌いを魅了する
柔らかな透明感のある羽はオパールのよう
夜が宝石を隠し君を守り黒くしてゆく

暑い日差しが旅立ちを用意しているのに
君は飛び立とうとはしない
身支度の遅い私みたい
君色自転車に乗り登校だと思う私は
君に侵食されている
夕焼けに染まる抜け殻は
ぽっかりと穴が空いている
恐る恐る手を伸ばし触れてみる
しっかりと細い爪が食い込んでいる感触
背中は再びぞくぞくして君を体感したみたい
悶絶して座り込む
虫嫌いの克服は険しい
君の柔らかな羽の色だけが好き
驚かす蝉は嫌い
夏は始まったばかり
今日もまた恐る恐る雨戸を閉める私がいる