一般(高校生以上)の部【ふるさと賞】この地に出会う /白鳥 美咲
更新日:2024年2月26日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬省略
この世に空がふたつの水鏡
望む山はなだらかに 南北に遥かにのびて
青い肌にまだらに浮かぶ白い駒
農夫婦はおだやかに 土に汚れた黒き手で
拭う額のしわの光る汗
トンネルを抜けた先 新幹線の窓に透けた
五月の風が吹く景色
見慣れたはずの故郷は
初めて出会ったような顔で挨拶をした
隔たれた年月は
わたしを異邦人に変えてしまった
この地を踏みしめるには わが身は虚しい
知らねばならぬことだらけの
真新しくなった世界のただ中で
さまよい疲れたからだで夢想する
あの山の駒に跨って 自由に空を翔けたなら
見つけることができるだろう
遠くなった土の匂いを
小さな虫たちの囁きを
古びた寺の杉の木立を
訛りのあるおしゃべりを
浩々とした田畑の緑を
寂れた街の暖かな灯を
微々たる生のひと欠片を
人と自然のありのままを
わたしのからだに余る全てを
駒の雪のからだいっぱいに詰め込んで
見過ごさないように 忘れぬように
そびえる山に飾りつけよう
見上げればいつでもそこにあってほしい
それが世界との繋がりだと信じたい
疲れたからだを起こして夢想する
五月の風に吹かれた 清々しい心のままで
置き去りにした美しさと感情に
再びめぐり合うために
白い駒に跨って この地の空を翔けぬける
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬省略
この地に出会う /白鳥 美咲
堰の水はやわらかに 広き田へと流れ入りこの世に空がふたつの水鏡
望む山はなだらかに 南北に遥かにのびて
青い肌にまだらに浮かぶ白い駒
農夫婦はおだやかに 土に汚れた黒き手で
拭う額のしわの光る汗
トンネルを抜けた先 新幹線の窓に透けた
五月の風が吹く景色
見慣れたはずの故郷は
初めて出会ったような顔で挨拶をした
隔たれた年月は
わたしを異邦人に変えてしまった
この地を踏みしめるには わが身は虚しい
知らねばならぬことだらけの
真新しくなった世界のただ中で
さまよい疲れたからだで夢想する
あの山の駒に跨って 自由に空を翔けたなら
見つけることができるだろう
遠くなった土の匂いを
小さな虫たちの囁きを
古びた寺の杉の木立を
訛りのあるおしゃべりを
浩々とした田畑の緑を
寂れた街の暖かな灯を
微々たる生のひと欠片を
人と自然のありのままを
わたしのからだに余る全てを
駒の雪のからだいっぱいに詰め込んで
見過ごさないように 忘れぬように
そびえる山に飾りつけよう
見上げればいつでもそこにあってほしい
それが世界との繋がりだと信じたい
疲れたからだを起こして夢想する
五月の風に吹かれた 清々しい心のままで
置き去りにした美しさと感情に
再びめぐり合うために
白い駒に跨って この地の空を翔けぬける