一般（高校生以上）の部【優秀賞】BAR G／ 和井田 勢津

受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬省略

BAR G／ 和井田 勢津

ウィスキーの瓶が三本並んでいた
何で三本もあるの？   と聞くと
飲み比べをしようと思って   と言う
バーでもあるまいし   と言うと
いやバーだ   ジーとバーがここにいる   と
私のこと初めて「バー」と呼んだね
十八だった青年と娘は出会って
地道に細胞分裂を繰り返し
バーとジーがここにいる
「BAR G」   本日開店

カウンターの内側に並んで
明日のグラスを丁寧に磨く
時々ナッツのようにことばを齧る
今夜は客もなく   二人だけ
父も祖母も   さっきまでいた母も
一度外に出た人は戻ってこない
消えるのでなく移動するのだ
「BAR G」は束の間の居場所

年中無休だがいつかは閉店の時がくる
ネオンが点滅している
「BAR」の赤い灯が先か
「G」の青い灯が先か
同着ゴールの奇跡が起きるのか
もう少し持ちこたえるのか

－あっ雨   雨？   雨だよ   雨か   雨   あめ
   寒い   寒いね   寒いなあ   寒いよ   さむ
こんなとりとめのない   甘ったるい
言葉の綾取りを   永遠に続けたい
まだまだ   まだまだまだ   まだまだまだまだ
まだ   話し足りない
「BAR G」

夜が明ける頃
ウィスキーの瓶が三本空になって
私たちは重なってぶっ倒れた