一般(高校生以上)の部【優秀賞】波/関根 裕治
更新日:2024年2月26日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬省略
人混みが苦手なわたしは
帽子を目深にかぶり
うつむきがちの姿勢で
若い二人連れが前を歩いていた
男性はおろしたての白いスニーカー
女性はフリルのついた青いスカート
デートの最中なのだろう
ふたり手をつなぎあって
ところが数十メートル歩くたびに
なぜかふたりは手をはなすのだった
そしてしばらくすると
またしかと手をにぎりあう
どういうわけだろう
顔をあげて見てみると
ふたりは歩きながらも
ときおり上半身をたがいに向け
手話を交わしているのだった
それで彼らはしばしば
手をはなす必要があったのだ
黙っていると不安がつのり
手をほどいて会話をかわす
触れていないと寂しくなり
会話をきりあげ手をつなぐ
そのくりかえしの所作は
冬の浜辺によせてはかえす
しずかな波のようだった
ほどくこころぼそさと
つなぐやすらかさのたびに
彼らはことばよりたしかな
何かを伝えあうだろう
血潮のぬくみをともなった
てのひらをつうじて
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬省略
波/関根 裕治
駅前通りの雑踏を歩いていた人混みが苦手なわたしは
帽子を目深にかぶり
うつむきがちの姿勢で
若い二人連れが前を歩いていた
男性はおろしたての白いスニーカー
女性はフリルのついた青いスカート
デートの最中なのだろう
ふたり手をつなぎあって
ところが数十メートル歩くたびに
なぜかふたりは手をはなすのだった
そしてしばらくすると
またしかと手をにぎりあう
どういうわけだろう
顔をあげて見てみると
ふたりは歩きながらも
ときおり上半身をたがいに向け
手話を交わしているのだった
それで彼らはしばしば
手をはなす必要があったのだ
黙っていると不安がつのり
手をほどいて会話をかわす
触れていないと寂しくなり
会話をきりあげ手をつなぐ
そのくりかえしの所作は
冬の浜辺によせてはかえす
しずかな波のようだった
ほどくこころぼそさと
つなぐやすらかさのたびに
彼らはことばよりたしかな
何かを伝えあうだろう
血潮のぬくみをともなった
てのひらをつうじて