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トップページ > くらしの情報 > 子育て・教育・スポーツ > 白鳥省吾記念館 > 「自然」の詩、「人間愛」の詩。白鳥省吾賞 > 第25回白鳥省吾賞の結果 > 審査員選評を読む

審査員選評を読む

更新日:2024年3月22日

注:音声読み上げソフトの使用に配慮して一部表記を変更しています。

大切な経験を自身の言葉で彫琢する/川中子 義勝

最終選考に残った作品には優れたものが多かった。身近な一つの出来事・経験を自身の言葉に留めようとする意図がよく感じられた。最優秀賞の大西昭彦さん「雪虫」は、その段階をさらに越え、目のあたりにする複数の対象を見事にまとめている。旅の宿の一場面を情景として描きだす力量は群を抜いている。色彩や人物の対比(闇と雪・灯、老女と赤ん坊)で場面がくっきり浮かび上がり、引用される老女の訛りが現実味を深めている。

優秀賞のお二人は、初めに述べたように、自ら経験した一つの出来事を独自の観点で表現しようと努めている。関根裕治さんの「波」は、前を歩く二人が手を繫いだり離したりする姿を訝しむところから出発し、注意深く観察し、納得する。二人の仕草と心の姿を寄せては返す波と受けとめた時に詩が成った。和井田勢津さんの「BAR G」は、「婆 爺」の連想から一見常軌を逸した場面を描いている。しかし、老いの現実を諧謔をもって語り出すユーモアと、生死の時をともにしたいと願う真摯が読者の心を捉える。

ふるさと賞、白鳥美咲さんの「この地に出会う」は、帰郷の主題を扱う。故郷を美しく想う心と、出自に立ち返りたいという願いを活き活きとした風土の描写を重ねて描く。曽根美代子さんも、栗原で生きてきた日々と将来を望む素朴な語りが好ましかった。審査員奨励賞のお二人の場合も、自身の経験を物語るそれぞれの言葉に、若々しい可能性が窺われた。内山芽泉さんの「宝石の持ち主」からは、蝉の姿に自分の在り方を重ねつつ、小さな命を思いやる優しい心が浮かび上がる。瑞雲旅人さんの「母の心、僕知らず」は、振る舞いからは分からなかった母の思いを知った感動を素直に語る。いずれも自らの経験をそれぞれの言葉で彫琢しようとしている。この観点からは、太田ユミ子、メンデルソン三保、天下井恵、白鳥光代、おぐりあつこ、この方々の作品にも惹かれるものがあった。

個性的な作品群/原田 勇男

傑出した作品には出会えなかったが、入賞した詩はそれぞれ個性的で読み応えがあった。大西昭彦さんの「雪虫」は、海ぞいのひなびた宿で老女の方言を聞きながら、北の海を見ている。「人はだれでも海峡をゆく灯火なのだ/孤独で寂しい鬼火なのだ」という二行の詩句に惹かれた。

関根裕治さんの「波」は感動的な作品である。前を歩く若い二人連れが数十メートル歩くたびに、なぜか手をはなす。しばらくすると手をにぎりあう。よく見ると、ふたりは歩きながら上半身を互いに向け手話を交わしていた。手をほどいて会話をかわしまた手をつなぐ。しずかな波のように。心に残る詩だ。

和井田勢津さんの「BAR G」は、ジーとバーが二人いて酒を飲んでいるから「BAR G」だという発想から詩が生まれた。十八歳だった青年と娘が出会って、さまざまな人生の局面を生きてきた。さりげなく書いているが、人生の年輪を感じさせる作品だ。

白鳥美咲さんの「この地に出会う」は一読してさわやかな印象を受けた。故郷を離れていたが、再び故郷に戻って、その豊かな自然と土の匂いの中で働らく人びとの姿に打たれ、この地で生きて行こうと決意する心が素直に表現されている。

内山芽泉さんの「宝石の持ち主」は、虫嫌いなのに、オパールのような羽を持った虫に魅せられた思いをみずみずしく描いている。微妙な感性の揺らめきが素敵で、審査員奨励賞に推した。今後も豊かな観察眼と感受性を生かして詩を書いてほしい。

瑞雲旅人さんの「母の心、僕知らず」は、陸上競技に打ち込む学生とそれを見守る母親の反応とのギャップを書いた。喜ばない母は実にすごく喜んでいるのに、冷静を装っているというオチが効いている。

様々な愛情のありようを感じた/佐々木 洋一

一般の部の最終審査は、応募数七百七十三編の作品から第一次審査を通過した四十六編を対象にしました。

今回は、震災やコロナ禍を経て、普段が戻ってきたのではないか。そう感じるほのぼのとした作品が多くありました。中には、新たな戦禍を危惧するものやジェンダーに関するものなど、今日的な題材の作品も何編かありましたが、本賞のテーマである「自然」「人間愛」に相応しい作品が揃ったように思いました。

最優秀賞の大西昭彦「雪虫」は、老女との会話などを通じて知った、海で生きる人々の厳しさや死を、誰もが抱える孤独で寂しい鬼火とみた。それは作者自身でもある。深く沈降した心に、赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。そこには生(いのち)の小さな輝き。少し感傷的であるが、方言の挿入、海辺の情景や心情の表わし方など、とても巧みである。優秀賞の関根裕治「波」は、歩いては立ち止まり、手話を交わす恋人同士に、言葉ではなく、手のひらの血潮で伝え合う愛情の真(まこと)を見据える。同じく優秀賞の和井田勢津の「BAR G」とは、婆と爺のこと。「時々ナッツのようにことばを齧り」まだまだと酒と言葉を交わす。老いを感じる歳となった夫婦のさりげない愛情を表現。ただ、「二人でウィスキー三本空」は飲み過ぎか。ふるさと賞の白鳥美咲「この地に出会う」は、自分の中で失われてしまったふるさととの再びの出会い。そこにはかつての自分と変わらぬ自然の姿が今も在る。作者の心の高揚が清々しい抒情と重なる。奨励賞は、昨年、小・中学生の部奨励賞を受けた内山芽泉「宝石の持ち主」。雨戸の虫という、普段は気付かない対象をしっかりと捉え、確かな筆力を感じる。瑞雲旅人「母の心、僕知らず」は、目のつけどころが面白く、母からのユーモア溢れる愛情をしっかり受け止めている。

熱血、新鮮、そして笑い/三浦 明博

最優秀賞・中村咲彩さん「小さな命」は、家に巣を作ったつばめの様子を、ていねいに観察しつつ応援している詩。文章からあふれ出る熱血応援ぶりに、「つんちゃん」たちが来年も訪れてくれることを願うばかりである。優秀賞・菅原汐さん「くりはらいん」は「みらいん」「あがらいん」等、地元方言ならではのいくつかの語尾の特徴を捉え、くりはらいんという言葉にまとめたところがうまかった。優秀賞・ベタのピースさん「たいふういっか」は、台風一過を台風一家に置き替えた点が面白くて、想像で見立てた家族の会話部分も笑えたし楽しかった。

特別賞・菅原瞳美さん「秋風」は、中学三年生という年頃の気持ちや感情の揺れを、吹きすぎる秋風に例えてうまく表現していた。特別賞・金野心南さん「すごいぞ ジジ集団」は、軽トラで突然やって来て、すごい勢いで雑草を刈りまくって去ってゆくジジ集団に対する、驚きと尊敬が感じられた。特別賞・内山和香さん「空蝉」は蝉の脱皮をよく見て書いた詩だが、きれいなだけでなくホラーのように感じるなど、新たな視点が新鮮だった。

審査員奨励賞・宮川千鶴さん「つかれた」は個人的にお気に入りの一編で、独特の文章とリズム感が心地よく、口角上がる、口元隠すというラストで締めたのが巧み。審査員奨励賞・菅原詩さん「カナカナの声に」は、岩手・宮城内陸地震で発生した地滑りを見た際の衝撃を描いていて、ともすれば忘れがちになっていることを戒められている思いがした。

文章を書くとき自分で気をつけていることの一つに「笑いの要素」がある。読み手を泣かせること以上に、笑わせることは難しいからだ。小中学生の人たちなら、なおさらだと思うが、今回もクスッと笑わせられた詩が何編かあった。皆さんの飾り気のない言葉で、この世知辛い時代を生きる大人たちの、眉間のシワをのばしてほしいと願っている。

向上の一途/渡辺 通子

第二十五回を迎える今回は、全国の小中学生から四百九十三編の応募があった。そのうち第一次審査で二十二編を選出した。年々、応募作品は全体的に向上しており選考は難航した。コロナ禍を経て、子ども達の自然や人間存在のとらえ方は大きく様変わりしているようだ。彼らが詩にする愛の形や自然のとらえ方は新鮮であり、そして複雑で深いものがある。選考の基準は、作者の発見や主張があり、一語一語を選んで詩の言葉として表現豊かであることに置いた。

最優秀賞の中村咲彩さん「小さな命」は飛来した燕が営巣し、子育てを経て、やがて帰燕となっていく過程をとらえた詩。自然界の小さな生き物の家族の観察を通して生命への愛おしさを表現する。

優秀賞の菅原汐さん「くりはらいん」は方言を取り上げた詩である。リズミカルな表現で、方言を使う人々への愛情を詠んだ。ことばのもつ不思議に迫り、故郷への愛を詩にした普遍性のある作品である。同ベタのピースさんの「たいふういっか」は同音異義語の妙をモチーフに擬人化による家族愛を詩にした。

特別賞の菅原瞳美さん「秋風」は、秋風に仮託して自己の内面を詩にすることで独自の世界観を描いた。同金野心南さん「すごいぞ ジジ集団」は、異世代の集団による除草作業の様子をとらえたもの。同内山和香さん「空蝉」は、眼前で繰り広げられる蝉の誕生に、自身の誕生の時を交差させることで、若き日の父と母へ思いを馳せた作品。

審査員奨励賞の宮川千鶴さん「つかれた」は、学校生活の一日の倦怠をつづる。同菅原詩さん「カナカナの声に」は、近頃頻繁に起こる自然災害を題材とした詩である。忘れがたい、心に焼き付いた「光景」が残した傷跡に鋭く迫る。

その他、選外ではあったが、水谷美伶さん「嘘つきの優しさ」の繊細な感情表現、川崎紘正さん「珀玖へ」の新しい家族のあり方を思わせる中学生おじさんのあふれる愛情を表現した作品にも惹かれた。

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