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審査員選評を読む

更新日:2023年2月24日

明るさを基調としたものが多かった/川中子 義勝

長びくコロナ禍が人々の心を重くしているが、最終選考作品には明るさを基調としたものが多かった。最優秀賞を得たのは、齋藤茂登子さんの「うたう」。栗原出身の方で、故郷への想いを、詩の表現として優れた形で作品化した。子どもの頃の経験を、なおその場に臨むかのように語る。その言葉は、この地方の言い回しと結んで、命溢れる躍動感に満ちている。「歌で言うの」「買いにいくの」「夢中なの」と、語尾に「の」を繰り返し、強調するリズムが独特の韻を形作る。「大人も子どもも   栗原の昔は音符」。郷土とその人間への愛を独特の口調で訴える語りかけは、手放しで共感を呼ぶ。優秀賞のお二人の作品にも、最優秀賞に劣らず心惹かれた。いずれも死別を主題とし、想う相手への深い気持ちが込められている。河野俊一さんの「新しい礼服」は、死期間近な息子から、葬儀のための喪服を贈られたという経験を物語る。亡き息子に「おまえ」と語りかけるその口調は、父を敬う息子の姿を偲んで、哀調を響かせる。詩の終わりに、感情を抑えつつも、父と子の絆の深さを語る言葉は感動的だ。出来事を通し人物を描き出す表現に、長く詩を書いてきた方の巧みを見る。丹野幸子さんの「夫婦茶碗」も、事物に即して想いを述べる作品。茶碗の大きさが一般の夫婦とは反対。だが、詩の本当の主題は、茶碗に残った傷の姿。洗い物を引き受けた夫が、身体の麻痺ゆえに残したその傷は、夫が生きた証として生前の姿を彷彿させる。終行は言わない方が余韻が残ると思われた。雁の群と「わたし」の交歓(共鳴)を記した白鳥美咲さんの「雁群」は、ふるさと賞に相応しい。幼時の体験を叙述する表現は大仰でも、感動を訴えたいという気持ちはよく伝わってくる。終連の凝集に力を感じた。奨励賞、菱沼大生さんの「宇宙の密度は減少中」は、インターネット時代の人間の在り方を想う。言葉は静かだが、弘大な時に向きあおうとする心の若々しさが印象深い。

 

ほのぼのとした故郷や夫婦愛/原田 勇男

今回の応募原稿を一読して、故郷や家族愛、夫婦愛を書いた作品に惹かれた。傑出した作品には出会えなかったが、自然愛や人間愛を讃える白鳥省吾賞にふさわしい応募作品が数多く集まった点を評価したい。

齋藤茂登子さんの「うたう」は、盛岡在住の女性が故郷の栗原若柳のくらしについて方言を使いながら軽快なテンポで表現している。当初、私は「ふるさと賞」に最適だと思ったが、この賞は栗原在住が条件だそうで私の勘違いだった。子ども同士や住民同士の会話が「うたうの   うたうの   歌で言うの」という独特の語り口で、明るく親密な交流を印象深く描いて最優秀賞に選ばれた。

河野俊一さんの「新しい礼服」は、死期を悟った息子が、自分の葬式で父親の着る礼服は親から譲り受けた古着なので、新しい礼服を誂えようとして母に連れられて紳士服店へ出掛けたという。父親にしてみればちっとも気にしていなかったが、息子には気になっていたのだ。これも家族愛の姿だろう。息子の深く優しい心遣いが哀切である。

丹野幸子さんの「夫婦茶碗」は四十五年連れ添った妻から亡くなった夫への思い出を平易な言葉で書いている。夫は脳梗塞を患い右の指に麻痺が残った。しかし毎日洗いもの係を引き受けた。茶碗はリハビリをする夫の手から滑って、小さく欠けて傷ついた。妻は欠けた茶碗の傷をさすりながら、夫が茶碗に残した暮らしの痕跡をなつかしむ。

ふるさと賞は白鳥美咲さんの「雁群」。沼から飛び立ち、群形を作って空を舞う雁の群れ。ひたすら血潮を沸騰させ、その命を燃焼させる雁の姿に魅せられ、人もまた再生の意志を掻き立てられる。

審査員奨励賞は山形県の高校三年・菱沼大生さん(十七)の「宇宙の密度は減少中」。宇宙が膨張すれば、宇宙の密度は小さくなる。インターネットで世界を結ぶ距離が短いうちに、言葉を繋ぎとめようと若者らしく主張する。

注:音声読み上げソフトの使用に配慮して一部表記を変更しています。

親しみやすくホットな作品/佐々木 洋一

一般の部は、応募数一千編の作品を原田審査員と半分ずつ読み、三十五編を第一次通過としました。最終選考は川中子委員長のもと、各作品に各々が最高十点の持ち点で評価、計二十点以上の作品に審査委員推薦を加えた十四編を対象に検討しました。

今回は、本賞のテーマである「自然」「人間愛」がより豊かに表現された作品が多かったように思います。また、地元栗原や高校生の作品では、実力のあるものが揃っていました。中には近親者の死をテーマにした作品も何編かあったのですが、死を前向きに捉えることで、痛みから解放されていました。受賞作は、親しみやすくホットな作品となったのが特徴と言えるかも知れません。

最優秀賞の齋藤茂登子「うたう」は、岩手県盛岡市に住んでいる作者が、生まれ故郷栗原のむかしの様子を活写。遊びの情景や駄菓子屋でのやりとり、夜の静けさなどが懐かしく蘇ってきます。リズムよく歌われているので、一緒に口ずさみたくなる作品です。故郷を離れた人にとっては、故郷はやはり「いいとこだっぺ」なのかも知れません。優秀賞の河野俊一「新しい礼服」は、自分が亡くなることを予感した息子が、気になっていた父親の古い礼服を新しいものに買い替える。新しい礼服を父親が着るのは、自分の死が最初であることを知りながら。息子と父親の間にある溝を埋める心遣いが憎い。さりげない表現が一層深い思いに繋がっています。同じく優秀賞の丹野幸子「夫婦茶碗」は、亡くなった夫への愛情や家族のおもいやりが真っすぐ伝わってくる作品。読みながら、わたしと家族はどうなのか、おおいに自省させられました。ふるさと賞の候補は、白鳥美咲「雁群」と小野寺禮子「続青い芽よ」で、雁の群れから、自己存在のありようをしっかりと見つめ直した力強い作品「雁群」を選びました。奨励賞の候補は、高校生の菱沼大生「宇宙の密度は減少中」と板東ななみ「片蔭」で、「宇宙の密度は減少中」を選びました。どちらも対象の捉え方が新鮮で、力量や将来性を感じます。是非、書き続けて欲しい。

注:音声読み上げソフトの使用に配慮して一部表記を変更しています。

継続は力なりを実感/三浦 明博

最優秀賞・菅原瞳美さん「ため息」は、「厭世的な吐息をもらす」という言葉のくり返しで学校の一日を描いた詩で、斜に構えたような思春期ならではの感じがよく伝わる。最後、紅色の夕空を見て「楽天的な吐息がもれた」で結んだところがいい。優秀賞・槙納陽君「夏の雲軍団」は、京都の人だから歴史が身近なのか、空で東西の雲軍団が関ヶ原のように戦う場面が見えるようで良かった。優秀賞・菅原結菜さん「ありのぎょうれつ」は、ありの行列についてとなりの家までいったというのが楽しく、そのようすを自分の家族に見立てているのも、ほほえましい。

特別賞・水谷友理子さん「交差」は、電車で自分が英語を、隣の外国人が日本語を、それぞれ学ぶ風景に気づき、いつか二つの言語が交差する未来を願う、という希望を感じさせてくれる。特別賞・八巻愛里さん「鳥」は、四季を鳥で表現する視点が珍しく、スズメやカラスなど、ごく普通の鳥をよく観察していると感心した。特別賞・齋藤悠一郎くん「波打ち際」は、海辺を歩きながら自然災害や様々な世界の出来事に想いを致し、鯨を象徴的に扱っているところがよかった。

審査員奨励賞・ウジエさん「記憶のベンチ」は、過去と今日とをつなぐベンチに座る「私」を、ごく簡潔な表現で客観視していて好感が持てた。審査員奨励賞・内山芽泉さん「蝉」は、庭木に蝉が「たわわになっている」景色を見つけ、修学旅行の自分達と重なって見える、との例えがいい。審査員奨励賞・豊田葉那さん「線香花火」は、夏の終わりの象徴、そして「みんなとはちょっぴりちがう」花火として、線香花火をとらえた感受性が心に残った。

今回、地元・栗原市の小中学生が複数選ばれることとなった。年月をかけて地力をつけてきた成果を見るようで嬉しくなるとともに、継続は力なりは本当だなと感じた。

注:音声読み上げソフトの使用に配慮して一部表記を変更しています。

新しい生活様式のなかで/渡辺 通子

東日本大震災後の十余年は、全国で津波、洪水、地滑りなど、荒々しい自然の姿を目の当たりにした。ウィズコロナの時代に入って、新しい生活様式を模索している現在、小中学生の詩人の創った作品は、自然との向き合い方も家族や友人との在り方も変容している現実を投影するものであった。

最優秀賞「ため息」(菅原瞳美さん)は、今に生きる中学生のカタルシスを描いた秀逸作である。やり場のない感情を吐露しつつも、夕焼けに、ひと際輝く故郷の自然に包まれ癒やされる。

優秀賞は、いずれも小学三年生の作。「夏の雲軍団」(槇納陽さん)は、夏の日の夕立前後の雲の動きを観察して、巧みな比喩で表現した。「ありのぎょうれつ」(菅原結菜さん)は、蟻の生態への興味によって生まれた作品。

特別賞「波打ち際」(齋藤悠一郎さん)は、眼前の海を眺めながら自然災害に思いを巡らした詩。鯨とペットボトルに詰められた手紙が伏線となっている。「鳥」(八巻愛里さん)は、春夏秋冬の鴉をモチーフにしたものであろうか。「交差」(水谷友理子)の題名の交差とは、互いの言葉の交差をいう。私たちが使う言葉の広がりを踏まえ、練りに練った題名である。

審査員奨励賞は三編。そのうちの「蝉」(内山芽泉さん)は我が家の蝉の木の観察を通して、学校生活に重ね合わせた思いを巡らした作品。自然と友情を通して自らの青春を再認識する。その他、選外ではあったが「秋」(鮭がおいしい季節さん)は、秋の日の午後の日差しの微妙な変化やスーパームーンを捉えた感覚的な作品。「わらうバナナ」(蘇武彩音さん)は、夏の海での家族のふれあいを溌剌と描いた作品。

応募総数四百二十六点のうち二十二点が予備審査を通過した。いずれも甲乙つけがたい一定水準に達した作品である。それだけに応募の際には、誤字がないかどうか、内容が正確かどうか等の確認は必須である。

注:音声読み上げソフトの使用に配慮して一部表記を変更しています。

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