小・中学生の部【特別賞】波打ち際/齋藤 悠一郎
更新日:2023年2月10日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬称略
波打ち際/齋藤 悠一郎
波打ち際を歩いていく
少しずつ
海面がせり上がっていることに
気がついてはいたけれど
見て見ぬふりをして
昔の足跡は
すっかり波に
かき消され
今さら
後戻りなどできやしない
波間に見え隠れする
手紙が詰められたペットボトル
片っ端から飲みこんで
手紙の用事も分からぬまま
鯨は岸辺で待ちぼうけ
大震災が起こって
大雨が降って
山が崩れ川が氾濫して
ウイルスが蔓延して
ミサイルが飛び交って
切り立った崖に波しぶきがあがり
行く手を阻んでいる
潮騒にまじって
かすかに聞こえる
鯨の断末魔の叫び
夕波に
手紙の断片が
一面に漂う