一般（高校生以上）の部【優秀賞】ペイン（Pain)／小野寺 さゆり

受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬称略

ペイン（Pain)

ぼくが自らコードを切った時
嵐のような痛みが稲妻のごとく走った。
この明るい痛みがわかるか。
バチッと放電してゆるく上がる煙の匂い。
コードは   へその緒のようにねじれ
母体と切り離された。
先端のソケットは
まだ電気を吸っている。
そういえば   赤ん坊は
へその緒が切れる時   痛いのだろうか。
痛いのは   母か、それとも子か。
へその緒のそれ自身に
痛みの記憶はあるのか。
太い記憶の絆の束を
切られたことを知っているのか。
痛いのは母か、それとも子か。
ぼくのコードが切れた時
ぼくは唯一単体となったが
その後   どこへともなく行き場なく
やり切れないコードの記憶を背追い
元に戻らないちぎれた銅線の束を
転りながらのぞいてみた。
ぼくのへその緒が切れた時
痛いのはぼくなのか、それとも母さんなのか
放電しながら   ぼくはいつもねじれて
ちぎれたコードの端を探して   痛がる。
そういえば
かなへびのしっぽがちぎれた時は
痛いのはかなへびなのか、しっぽなのか。
白いコンクリートの強烈な照り返しの中で
少し笑ってしまう。
その切り口は   何よりも強く逆むけた
放電しつづける果なき原点だから。