一般(高校生以上)の部【最優秀賞】千年桜/みうら ひろこ
更新日:2019年2月4日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
本文に読みがなを( )書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬称略
千年桜
私はいつこの地に根づいたのだろう
私が幾多の戦火をくぐりぬけ
酷暑や風雪に耐えぬいているとき
こんな声を聞いたような気がする
負けるな力強く根を張り大きくなれよ
それからこんな声もかけられた気がする
美しい花を咲かせ、人々に勇気と希望を与
えておくれ
私がずうっと後の世まで生き延びることが出
来たのは
こんな祈りを託されてきたからではないのか
いつの世にも苦しみや悲しみがあった
そしていつの世の人も私に希望を持ち祈った
人の一生を旅にたとえるのなら
たかだか百年にも満たない旅に
私は変ることのない姿でここに在りつづけ
旅する人の一生を見つづけてきた
私の円周二十キロ圏内には
私の子孫が私と同じ花を付けているらしい
小鳥が私の実を喰み
体外へ排出する範囲が二十キロ圏内であるこ
とを、歩いて調べた人がいた
小鳥にとって生きぬくための飛翔の世界
小さな命の旅を終えるとき
そこに祈りの若い木が育っていることを
知っているだろうか
私の老いた枝々に副え木や支柱が施こされ
私の老体は支えられている
いつの御世であっても
私はここに在り愛でられ希望の樹として
あとどの位ここで人の祈りを受け止めること
が出来るだろう
私に癒やしを求め爛漫と咲く花の季節に
私に会いに来てくれる人々の
平和への祈りの心が波動のように私を包み
笑いさんざめく数多の人々に応えるため
恰(あたか)も滝が流れ落ちるような枝の端々まで
私は花を咲かせつづけたいと願っている