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トップページ > くらしの情報 > 子育て・教育・スポーツ > 白鳥省吾記念館 > 「自然」の詩、「人間愛」の詩。白鳥省吾賞 > 第20回白鳥省吾賞の結果 > 審査員選評を読む

審査員選評を読む

更新日:2019年3月4日

人間愛と自然の詩/中村   不二夫

   白鳥省吾賞は、今や全国的に知られる賞として、詩人としての登竜門、すでに知名度のある詩人にとっては現実的評価の確認などの目的が混在し、いつも選考は難航する。そこで鍵となるのは、詩の巧拙以上に、「人間愛」の詩、「自然」の詩というテーマにどれだけ肉迫しているかになる。今回、予備選考を潜り抜けたのは三十二編で、十八歳が最年少、七十六歳が最高齢である。今回は厳しい予備選を通った作品であれば、どれが受賞してもよいと考え、まず選考委員三名で全作品について討議を行った。そこで残ったのは十七編である。さらに優秀賞候補を絞り込んでいき、みうらひろこさんの「千年桜」が最優秀賞に決まった。例年震災関連の詩は多く、それだけに審査する側も厳しい目を向けざるを得ず、震災というリアリズムを越えた言葉の自立、事象に倚りかからない、個としての思想があるかどうかが評価のポイントとなる。その点、みうらさんの詩は平易な表現であるが、対象への掘り下げが深く、震災は前面には出ていないが、復興を願っての「希望の桜計画」を暗示させるなど、この地に人が生きて祈ることの意味を教えられる。優秀賞は礒部るみ子さんの「私の作品」。母親として、子どもへの愛情表現がストレートに伝わってくる。佐々木審査員が「だらしなく甘い   底なしに優しい匂い」というフレーズを絶賛していたが、その評価に背中を押され同意した。もう一人の優秀賞は小野寺さゆりさんの「ペイン(Pain)」で、人の誕生と生の痛みが、独特なアレゴリー表現の中に情感豊かに書かれている。奨励賞は最年少の高校生、山中美月さんの「亥の子祭り」で、豊かな将来性を感じる。この他、最後まで討議に残ったのは木村孝夫さん「傾聴」、丸山ゆうなさん「どんぐり」、神田雅之さん「回帰   私と鮎」、河野俊一さん「冬の夜」、堺俊明さん「3つの今日」などで、優秀賞とは僅かの差であった。丸山さんと神田さんは大学生。


桜の大樹を題材に新境地を開く/原田   勇男

   ずば抜けた作品には出会えなかったが、最終選考に残った作品は自然、人間愛を主題とした白鳥省吾賞にふさわしいレベルに達していた。また、賞には届かなかった作品でも、若手の台頭に注目した。
   みうらひろこさんの「千年桜」は格調高い気品が感じられる作品。みうらさんは東日本大震災と原発事故の影響で、福島県浪江町から福島市や相馬市に避難し、被災者の苦難を味わった。昨年までは震災と原発事故を主題に詩を書いてきたが、今回は地域に根付いた桜の大樹を題材に新境地を開いた。過去から未来への長い時の流れのなかで、樹木の側から人間の願いや平和への祈りを表現している。復興への思いもあるだろう。他の作品に比べ全体に瑕疵がなく、最優秀賞にふさわしいと考えて推薦した。
   礒部るみ子さんの「私の作品」は、子育てを素直に表現した微笑ましい詩篇である。生まれて間もない子どもに振り回され、睡眠不足と疲労で限界に近い精神状態に追い込まれるが、ふと「だらしなく甘い   底なしに優しい匂い」に母性本能が刺激され「この子も   私も   神様も   少し許せた」という言葉が母親らしく初々しいと思った。
   小野寺さゆりさんの「ペイン(Pain)」は痛みを主題にしたユニークな作品である。コードやへその緒が切れた時、かなへびのしっぽがちぎれた時の痛みを想像して、作品に定着している。他の誰とも違う独特の切れ味が特徴である。
   山中美月さんは18歳の高校生。「亥の子祭り」は郷土の祭りをみずみずしく描いた作品で審査員奨励賞に輝いた。祭りの情景や元気な子どもの歌声、丸い石を宙に浮かせて地面をつく心地よい音。各家庭の繁栄を祈って回る祭りの行列。その伝統を守ろうという思いが伝わってくる。これからも詩を書き続けてほしいと思う。

さらに、若い世代に期待して/佐々木   洋一

   いつものことですが、最終選考の対象となった32編の作品は、どこか心に引っ掛かるものがあり、この中から数編を選ぶことの難しさを感じます。
   最優秀賞のみうらひろこさんは、原発事故によりふるさとを追われた中、日々の生活を通し前向きな作品を書き続けています。今回は、人々への共感や生への信頼を「千年桜」の目を通し深く広く捉えた作品で、作者の現在の心情が見事に貫かれていました。
   優秀賞の礒部るみ子「私の作品」は、産後の育児に悩みつつ、母親の子への気持ちが危うく切なく捉えられています。「乳しか口にしない   いきものの/だらしなく甘い   底なしに優しい匂い」という表現に、わたしはすっかりまいってしまいました。どこにでもある母親と子の姿を描いたものですが、「人間愛」の根源的なあり様を感じました。同じく優秀賞の「ペイン(Pain)」小野寺さゆりは、力のある書き手です。目の付けどころ、モチーフが大胆で、生の現場を的確に捉えた作品です。後半のかなへびのしっぽを取り上げたユーモアも活きていました。
   奨励賞の山中美月「亥の子祭り」は、ふるさとの祭りの様子を初々しい感覚で捉え、作者のふるさとへの思いが率直に伝わってくる作品です。高校生ですが、これからも対象を真っすぐ見つめ書き続けて欲しいと思いました。
   若い世代の、鈴木小すみれ「ある三角」丸山ゆうな「どんぐり」三島夕陽「マドロミ」薬師丸怜央「糸」村上芽生「華明かり」は、新鮮で勢いがあり、これからがとても楽しみです。継続書き続けて欲しい。また、木村孝夫「傾聴」南雲和代「始期」白島真「砂漠谷」の震災後の心情や現状を捉えた作品では、生きることの痛みが強く迫ってきました。
   なお、実力のあるベテランの作品については、これまで以上ではないということで選外となりました。

よく見る目/三浦   明博

   今年も小・中学生ともに特色あるさまざまな詩が集まったが、よく見ているところが共通していた。最優秀賞・菅原琉太君「てんしのセミ」は、セミの幼虫が羽化するところに出会い、驚きながら観察する内容だ。黄緑色をした体を見て思わず声を出す場面など、まるで一緒に見ているような気分になったし、ぬけがらだけが残る翌日のラストも印象的。優秀賞・佐々木優杏さん「生きるために」は、空を舞うタカを見ながら、そこに自分たちの人間関係を重ね合わせてよく考えられていた。優秀賞・山岡真緒さん「クワバラ」では、湖での雷の光景を描いているが、描写する言葉の選び方に鋭敏な感覚を持っていると感じた。
   特別賞・高橋莉央さん「下校中の闘争心」は、道路をはさんだ両側の歩道で、部活の後輩といつの間にか競い合って早足になる様子をコミカルに描いた詩。特別賞・菅原礼君「タニシ」は、田んぼから持ち帰ったタニシを金魚鉢に入れておいたところ、数が増え、自分は二人姉弟なのにタニシは十六こ兄弟という部分も良かった。特別賞・菅原夏穂さん「時を駆けろ」は、時の流れる速さについていけない自分を見つめる内容だが、同世代にはっぱをかけるラストが爽快。
   審査員奨励賞・小谷瑛人君「ダレカガ   ダレモガ」は、社会で起きる大小の出来事に心を動かされつつも、傍観する自分や他人を皮肉な目でつづった内容。同じく奨励賞・酒井顕太郎君「弟に負けられない剣道」は、自分より剣道が強い弟への悔しさ、ケガをしても素振りを欠かさなかった結果、やっと勝てた安堵を書いていた。
   この他、菊池くるみさん「ひみつの話」の私とばばちゃんのほほえましい関係、佐藤七桜さん「空も笑う」の、空の変化を感情にたとえる多彩な表現、長坂浩佑君「おい人間」の、ミミズの心になりきって人間に問い返す視点なども印象に残った。

圧倒的に地元勢が強かった-選考を振り返って/渡辺   通子

   今年は20周年の記念の年であり、応募作品は秀逸なものが多かった。
   誰でもない<私>の発見や驚きや感動といったものをうまく言葉に乗せた時、詩が生まれる。言葉と詩の言葉(詩語)とは異なる。その違いに気づいた時、作品は飛躍的に研ぎ澄まされる。選考を終えて、そんな印象をもった。
   小・中学生部門には780点の応募があった。そのうち41点が二次選考に進んだ。選考結果は、圧倒的に地元勢が強かった。
   最優秀賞「てんしのセミ」(菅原琉太)は、一匹の蝉が誕生するまでの息をのむような脱皮の時間を丁寧に描写したもの。初めて見る生き物の命の不思議に対する率直な驚きと喜びが生き生きと描かれている。
   優秀賞「生きるために」(佐々木優杏)は、猛禽類のもつどう猛さを描いて自然界の摂理をとらえた作品。鷹の獲物となる小動物たちの視点と、彼等と鷹を客観視する僕の視点から描いた。じわじわと迫る恐怖や押し寄せる焦燥を巧みに表現した。「クワバラ」(山岡真緒)は、雷が来る前後の刻々と変化していく自然の情景をガラス越しに見る者の目線で描写したもの。巧みな場面設定と優れた描写力のある作品。
   特別賞「タニシ」(菅原礼)は、タニシの飼育を通した家族愛が描く。「時を駆けろ」(菅原夏穂)は、加速度的に変わりゆく時代の中で、気づいてしまった世の中の矛盾や不条理に疑問を投げかけながらも、それらを乗り越えていこうとする力強い意志が表われる作品。「下校中の闘争心」(高橋莉央)は、部活動の先輩と後輩の心の内にある人間模様をユーモラスに描いたもの。
   奨励賞「ダレカガ   ダレモガ」(小谷瑛人)は、「マアイイカ」で終わる終末が現代に生きる子ども達の世相をとらえているのだろう。「弟に負けられない剣道」(酒井顕太郎)は、兄としての面目躍如までの紆余曲折を描く。行間に家族愛が溢れる作品。
   その他、「ひみつの話」(菊地くるみ)、「平和と戦争」(松本爽那)、「じいちゃん」(高橋七星)、「駅伝」(佐々木翼)、「ある日の祖母へ」(高橋美宇)、「自由」(高橋美遙)、「おい人間」(長坂浩佑)、「地球と最後の砦」(岩佐華蓮)も印象に残る作品であった。

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