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審査員選評を読む

更新日:2021年2月5日

思慮の深さと表現の明晰さ/川中子   義勝

   今年はウィルス禍のために生活や行動に制限が強いられましたが、その中でも、深い思慮と明晰な表現をもった作品が多く寄せられました。最優秀賞を得た井上尚美さんの「葉桜の頃」はまさにその代表で、本賞の謳う「人間愛」を強く感じさせる作品でした。乳癌のために、これから手術に向かおうとする状況。冒頭の葉桜の描写や、控え室での家族の様子や看護師達の姿を述べる場面は落ち着いた筆致で、作者の温かい心持ちが溢れ、作品全体が明るさを湛えています。(あるはずの)病気ゆえの不安や恐れではなく、作品を充たしている明るさ、暖かさが読む者の心を惹きます。乳房にまつわる思い出として、授乳という至福の瞬間が想起されますが、その際の赤子の活きいきとした仕草など、印象深く表現されています。母となることを、花から葉への移行として受け止め、命の営みとして納得し、肯定するとき、詩が結晶しています。この肯定が詩の明るさの源です。
   優秀賞を得た三船杏さんの「海を見ている」も、表現する意図がはっきりと伝わる作品。まず書き出しの譬えに工夫がみられます。若い方ですが、自身で津波の地を訪れ、真実を汲み取ろうとする気持ちは大切です。海を得体の知れないものとする把握は明確で、表現に気負いはありますが、この人なりの世界把握です。何よりも、若者の特権である一途さに訴えを感じます。これからが期待されます。同じく優秀賞を得た「青空」の明石裕里さんは、原爆投下後75年目の広島に住む方。その日と同じ青空の下、犬の散歩の道すがら出会う被爆樹木に心を寄せます。犬がヤナギと心を交わす様子に、作者も樹木の担う出来事の重みを想う。戦後生まれの方が大事な主題を扱っています。審査員奨励賞は、雪柳あうこさんの「ことば」。視力を失った人と聴力を失った人が、意思疎通をする困難が主題。伝えるのに時間がかかっても、無意味ではないと共感する作者の優しい心に惹かれます。

 

癌や震災、原爆の傷と向き合う/原田   勇男

   白鳥省吾賞にふさわしいヒューマンな作品を求めて予備審査を通過した詩篇を読んだ。傑出した作品には出会えなかったが、本選対象の作品はそれなりに読み応えがあった。
   井上尚美さんの「葉桜の頃」は、癌の手術で乳房を失う母親が初めて乳房を吸う子どものひたむきな命の営みに感動し、どんなことがあっても子どもを守ると決意した頃を思い出す。花から葉桜へ気持ちを切り替えた人生の区切り。手術を前にした女性の心境を切実に描いている。
   三船杏さんの作品は、震災から十年が経過して被災地は復興へと舵を切り、建物を瓦礫に変え人間の命を奪った海を歴史のなかに閉じ込めようとしているのではないかと問いかける。若い感性のままに凶暴さを隠し持った海と対峙しながら震災について考えている。最近読んだ震災の詩の中で、出色の作品だと思う。
   明石裕里さんの「青空」は、広島の原爆で傷ついた樹木がテーマである。犬の散歩道に並んでいる被爆のプレートをつけた樹木群。被爆当時は草木も生えないと言われたが、七十五年が経って逞しく生きている。犬が真摯に呼びかける。「よく生きていたね」とでも言うように。広島の地で青空に向かって健やかに伸びる樹木を歌ったさわやかな作品だ。
   雪柳あうこさんの「ことば」は、視力を失った人と聴力を失った人が手のひらに文字を書き合って意志を通じようとする。なかなかすぐには通じない。だから時間をかけて何度でも指で文字を書く。言葉を伝えることの大切さ。健常者にはわからない伝達の手段を表現している。文句なく審査員奨励賞に推薦した。ほかに関根裕治さんの「真夜中の指揮者」にも注目した。



新鮮で清しい作品/佐々木   洋一

    栗駒に長い間住んでいるので栗駒のことは何でも知っているかというと、知らないことが多くあります。ここに住んで見えること、ここに住んでいるだけでは見えないこともあります。詩にもここだけではないあそこ、あそこだけではないここなど色んな見方が大切な気がします。様々な発想や書き方を自由に展開して欲しい。コロナ禍にもかかわらず今回も多様な世界に触れることが出来、得をしているのは毎年審査に拘わっているわたしなのではないかと思ったりしました。実感として、回を重ねるごとに素晴らしい作品が多くなりました。また、最終審査に残った作品は、入賞した作品と遜色がないということも言っておきたい。
   コロナ禍の今回は、川中子審査員長が遠方ということで、リモートで行いました。予め予備審査通過作品を三人それぞれが点数を付け審査に臨む方法を取ったこともあり、入選作は順調に決まりました。最優秀賞の井上尚美「葉桜の頃」は、病に取り組む前向きな姿勢が率直に捉えられており、末尾の事務的に対応する看護師との対比が新鮮でした。四連目「あの日/私は花をすでに脱ぎ捨てていたのだろう/いのちを繋ぐために花を葉に変えることは/とても神秘的で美しい約束ごとなのだ」は、女性でなければ感じることが出来ない説得力のある言葉だと思いました。優秀賞の三船杏「海を見ている」は、震災をモチーフにした作品で、全体に若い気負いや硬さがあるのですが、それが逆に小気味よく感じました。対象をしっかり見つめた真っ直ぐな気持ちが清しい。十九歳の学生とのことであり、これを機会にさらに書き続けて欲しい。同じく優秀賞の明石裕里「青空」は、被爆後七十五年が経った広島、今でも立ち続ける樹木を通して、生き貫いてきたものへの深い思いがあります。また、人にはない嗅覚、聴覚の持ち主の犬の捉え方が的確。審査員奨励賞の雪柳あうこ「ことば」は、視力を失った人と聴力を失った人との関わりが簡潔な言葉で表現されています。相手を思いやる心持ちがとても美しい作品だと思いました。



力強い言葉、繊細な表現/三浦   明博

   最優秀賞・山田陽輝君「背負い、繋ぐ。」は、物事をよく見つめた言葉の連なりで、先祖から受け継がれてきた郷里の景色の変容と、変わらない家族の光景を描いた。次は自分がその襷を繋いでいくのだとの宣言が、力強く伝わってくる。優秀賞・菊地小春さん「流れ星」は、姉と母親と三人で庭にシートを広げて流れ星を見たときの詩だが、一つひとつていねいに繊細に描かれ、目に浮かんでくるようだった。優秀賞・内山芽泉さん「夜中の訪問者」は、テスト勉強をしていた部屋にセミの幼虫が現われ、とつぜん脱皮し始めたエピソードをユーモラスに描き楽しく読めた。
   特別賞・齋藤悠一郎君「二〇二〇年夏」は、前半での文明批判的なトーンの描写が、一転して、カヤックで緑溶け込む川へこぎ出していくという場面転換が鮮やかだと感心させられた。特別賞・菅原優花さん「空色の風船」は、学校行事で風船を飛ばす際の体験を書いた詩だが、空に放たれた空色の風船に、自分を重ね合わせた点がよかった。特別賞・鈴木毬子さん「あの日の私」は、つらい体験をへたみずからの内面を、選び抜いた単語と表現で描いており、韻を踏んでリズミカルな文章が心地よかった。
   審査員奨励賞・佐藤蒼來さん「心のてんびん」は、自分の中にある心のてんびんに、いろんなものをのせてみるという内容で、短い詩だが、どこか心ひかれるものがあった。審査員奨励賞・山崎朝香さん「大丈夫」は、友人との距離をうまく測れない心のようすを、つい使いがちな大丈夫という言葉で表現しているが、自分の本心にたどり着いて「大丈夫」の裏表を書けたところがよかった。



withコロナの中の自然、人間愛/渡辺   通子

   第22回白鳥省吾賞は、人類がかつて経験したことのない新型コロナウィルス禍の中での開催となった。小中学生の皆さんは、緊張や不安を強いられる日々を送っていることだろう。そのせいもあって応募数はやや減少したが、作品の質はむしろ向上している感があった。予選通過作品は30編、今回は中学生の作品が上位に多く残った。
【最優秀賞】山田陽輝「背負い、繋ぐ。」は、変容する郷土、栗原の自然を鋭敏な感覚で捉えながら、そこに生きる家族の愛を詠んだ。夕餉の準備をする母の姿を描く作者の眼差しには作者の成長もみてとれる。風土と共に生きる決意が活き活きと描かれ、コロナ禍にあった年の最優秀賞にふさわしい作品である。
【優秀賞】菊地小春「流れ星」は、母と姉とで夜空を観測する様子を描いた、明るく躍動感ある作品。同じ星空を見ていても、見える流れ星の様子は三者三様。
【優秀賞】内山芽泉「夜中の訪問者」は、テスト勉強に勤しむ作者が思いがけずも遭遇した蝉の脱皮をユーモラスに描く。微細な観察描写がよい。
【特別賞】齋藤悠一郎「二〇二〇年夏」は、自然災害やコロナ禍の中で目の当たりにした、急激なデジタル社会の到来に翻弄される街を描く。「未来を追い越してこの先/どこへ向かっていくのだろう」は人類に向かっての作者の問いかけ。
【特別賞】菅原優花「空色の風船」は、空に飛ぶたくさんの風船の鮮やかな色が目に浮かぶような作品。その中のひとつの風船に、ともすれば大勢の中に埋もれがちな自分の姿を重ね合わせる。
【特別賞】鈴木毬子「あの日の私」。思春期の心模様は複雑である。居場所というアイデンティティを探し出そうともがき苦しむ。ある人はそれを哲学すると言う。
【審査員奨励賞】佐藤蒼来「心のてんびん」は、てんびんに託して自身の揺るぎない価値観を歌う。
【審査員奨励賞】山崎朝香「大丈夫」。「大丈夫」という言葉は、本当はSOSのサイン。
   その他、荒川智哉「上へ下へ上へ」、高橋奏惺「父と僕」、佐々木優杏「四等星」が印象に残った。


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