小・中学生の部【最優秀賞】背負い、繋ぐ。/山田 陽輝
更新日:2021年2月26日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬称略
ファルト。
聞こえてくるのは家畜の鳴き声ではなく、
モーターやエンジン。
森はいつしか禿げて陽の光を集め、田園は
緑の隼が駆け抜ける。
先祖が見てきた景色は、家族団欒の様子と
郷土。
長年家族を養ってきたその指は、腫れて太
く、大きく、そして逞しく。まだ慣れないス
マホは小指操作。
母の味と優しさを伝えてきたその指は、白
く、深く、そして暖かく。食材の香りが染み
付いた指はシワだらけ。
幾度と経験した腱鞘炎と、汗が染み込んだ
つなぎ。
少しずつ曲がり始めた腰。風に靡く髪は、
まるで蝶ではなく老いた白鳥。
台所に響くのは、包丁とまな板がぶつかる
音。
家中に夕暮れが香る。
夕暮れの香りは私たちの血に刻まれている。
今宵も、竹林は踊り、瞳には月が映る。
先祖が望み、繋いできた、秋に燃える恵み
の栗駒山。先祖が繋いできた命を、栗駒山と
いう名の襷を、私たちは背負い、繋いでいか
なければならない。
そう言って私は今日も夕暮れを、蜩と共に
待つ。
そして私もまた、夕暮れの香りを、襷を繋
いでいく一人なのだ。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬称略
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- 朗読動画「背負い、繋ぐ。」山田 陽輝(外部サイトにリンクします)
背負い、繋ぐ。/山田 陽輝
雨が降ると香るのは金木犀ではなく、アスファルト。
聞こえてくるのは家畜の鳴き声ではなく、
モーターやエンジン。
森はいつしか禿げて陽の光を集め、田園は
緑の隼が駆け抜ける。
先祖が見てきた景色は、家族団欒の様子と
郷土。
長年家族を養ってきたその指は、腫れて太
く、大きく、そして逞しく。まだ慣れないス
マホは小指操作。
母の味と優しさを伝えてきたその指は、白
く、深く、そして暖かく。食材の香りが染み
付いた指はシワだらけ。
幾度と経験した腱鞘炎と、汗が染み込んだ
つなぎ。
少しずつ曲がり始めた腰。風に靡く髪は、
まるで蝶ではなく老いた白鳥。
台所に響くのは、包丁とまな板がぶつかる
音。
家中に夕暮れが香る。
夕暮れの香りは私たちの血に刻まれている。
今宵も、竹林は踊り、瞳には月が映る。
先祖が望み、繋いできた、秋に燃える恵み
の栗駒山。先祖が繋いできた命を、栗駒山と
いう名の襷を、私たちは背負い、繋いでいか
なければならない。
そう言って私は今日も夕暮れを、蜩と共に
待つ。
そして私もまた、夕暮れの香りを、襷を繋
いでいく一人なのだ。