【優秀賞】夜が明ければすべてのことが/松本 健吾
更新日:2018年7月9日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬称略
原文はこちら
窓の向こうの景色はまだ 仄青い色の中に
眠っている
暗い空はまるで大鳥の巨大な翼に覆われてし
まったかのように翳っていて
彼は白い息を吐き太陽を待った
彼は夜明け前の空気の匂いの心地よさに目蓋
を閉じた
彼は夜が明けたあとのことを考えている
夜が明ければ
そこではすべてのことが起こり得るだろうか
ら
定規で線を引いたような東京の湾岸
イスタンブールの車道
ブタペストの公園
セントポールの路地裏
ジャイサルメールの屋根の上
あらゆる場所で あらゆることが
魚の腹みたいに輝く雨上がりの坂道の
砂糖水を湛えた寂しいコップの
うっすらと埃の積もったノートの
硝子細工の物憂い温度の
あるべき理由を教えてほしい
何も語らない針葉樹林の
正午の窓辺に垂れる花の
粉っぽい光を反射する白い河の
ぼんやりとした共生感を抱かせる空の
そこにあるいつくもの意味と無意味が
彼らに詩を書かせる啓示だった
さあ 君も地平線を見るがいい
秘密の朝がつめたく燃え上がって
彼らの眼は
乾いた冬の夜明けに灼ける