【優秀賞】祈る人／桐木平 十詩子

受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬称略

原文はこちら

訪れる人なく
暮れようとする一日を
悲観的に考えるのはよそう

祈りの意味を疑っていた私は
あなたの前で黙るしかなかった
あなたは祈る 動かぬ体で
健やかに何かを祈る

生きることをやめなかったご褒美に
手にした安らぎに包まれて
体は動かなくても
心は自由に
何処までもいけるのだ
四角く区切られた部屋の片隅で
肉の削げ落ちた細い身体で
西日の眩しさゆえか
乾いた皮膚と深い皺に狭められた瞳は潤み
遠くを見たいのか時折瞬く
まるで傷ついた草食動物のようだ
もう誰の声もあなたの耳に届かない
薬の管も消毒薬の臭いも
もうあなたを侵すことは出来ない
こうして祈ることにも気づかず
あなたは逝くのかも知れない
最後に残った身体と魂は
祈りそのものになって
手を合わせ何かを祈り続けている

あなたの語りつくせない過去は
裡に閉ざされ消えてゆくけれど
傾いてゆく夕陽のように
限られていくことで命は輝くのか

落ち窪んだ瞳を捉える
私を見るようにして
あなたは静かに微笑んでいる