【最優秀賞】野道にて/高橋 英司
更新日:2018年7月9日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬称略
原文はこちら
屈託を感じたら
野に出てみることだ
特別なことは何もないけれど
号令に従うように
雨上がりの草がぴんと背筋を伸ばし
どやしつけるように風が吹きつけ
水たまりには山が映っている
退屈な一日だったら
空を見ることだ
首をぐるりとめぐらして
大パノラマをわがものにすることだ
特別なことは何も起きないけれど
海のような青には底がなくて
はるか彼方に無限の宇宙があるだけだ
勤め人だったころ
車窓から書き割りのような景色を眺め
流れにゆだねて時を過ごして来た
特別な幸福も不幸もなかったけれど
規則に従い自然の掟のままに
草が繁り 枯れ 土に還るように
そのつど息を吹き返して来た
野道をぐんぐん歩いて行って
林の中に入ろう
ぶんぶん虻が飛んで来て
梢では百舌がぎゃあぎゃあ啼いていて
特別なことは何もないけれど
湿った地面からは土の匂いがする
木漏れ日がわずかに射して下草が光っている