コンテンツにジャンプ
栗原市
  • くらしの情報
  • 市政情報

検索方法

トップページ > くらしの情報 > 子育て・教育・スポーツ > 白鳥省吾記念館 > 「自然」の詩、「人間愛」の詩。白鳥省吾賞 > 第19回白鳥省吾賞の結果 > 審査員選評を読む

審査員選評を読む

更新日:2018月7月9日

農民詩と人間詩学/中村 不二夫

白鳥省吾賞には世代や詩的キャリアの違いを超えて、毎年全国から多数の応募作品が寄せられる。募集のテーマが「人間愛」及び「自然」の詩で、それに即した詩が集まるのは必然であって何の問題もない。しかし、それが傾向と対策を講じた言語テクニックの成果なのか、内側から自然に湧いて出たものかの見極めは重要である。
最優秀賞は高い詩的キャリアの持ち主、高橋英司さんに文句なく決まった。高橋さんは教師をリタイアした第二の人生、零細果樹園農家の仕事に勤しんでいる。白鳥省吾は民衆詩運動の中核に農民詩の普及を掲げた。その詩論に導かれるように、ここに現代詩人の視点から優れた農民詩が生まれたことを喜びたい。優秀賞は桐木平十詩子さんの「祈る人」で、死の淵にあって尚も生きる人の姿を描いて感動を呼ぶ。桐木平さんの詩を読むと、祈りの本質とは、ひたすら黙し、だれかの命に寄り添うことであることが分かる。もう一篇の優秀賞は、十代の大学生松本健吾さんの「夜が明ければすべてのことが」である。天賦のみずみずしい感性が、この時代の物質的豊かさと精神的貧困の相克を余すことなく写し取っている。私たち世代は岡林信康の「友よ」に導かれて、視界不良の夜明けに向かっていったが、戸山さんの世代にはどんな希望の明日が待ち受けているのか。
入賞には至らなかったが、あいざわえいちさんの「沿道」は「いつだって どこでだって/誰かが 誰かの為の/きっと沿道」とするなど、着眼点がよい。恵矢さんの「溺れぬ若葉」は翻訳業に携わる日常にヒントを得ての力作。渡会三郎さんの「観音様」は少年と蛍の命がひとつにつながっている。他にみうらひろこさんの「三月の伝言板」、磯村莉佳さん「温度」、翠さんの「岬」、感王寺美智子さん「失ったもののかわりに」などが印象に残った。実績ある伊藤芳博さんや里見静江さんの作品は読みごたえがあった。 

おおらかで土の匂いがする作品/原田 勇男

高橋英司さんの「野道にて」は、おおらかで土の匂いがする作品である、伸びやかで肯定的な精神が好ましく、周りの自然や宇宙と同化しようとした宮沢賢治にも通じるものがある。高橋さんは詩歴の長い著名な詩人だが、生きることの原点に立ち返ったような潔さが感じられ、自然愛と人間愛に満ちた白鳥省吾賞にふさわしいと思った。
桐木平十詩子さんの「祈る人」は、命の終わりを前に静かに祈る人の姿をまるで影絵のように映し出している。臨終を迎えようとしている人の「体は動かなくても/心は自由に/何処までもいけるのだ」という詩句が切ない。私たちは表面的に死者を看取ることはあっても、その人が今どんな思いでその瞬間を迎えようとしているかはわからない。一生に一度の出来事を前にした人の思いに、真摯に向き合った深みのある作品である。
松本健吾さんの「夜が明ければすべてのことが」は、新しい世界の到来を待ち臨む十九歳の若者の心情がみずみずしく表現されている。自分たちが生きることへの問いかけや事物の存在にどんな意味があるのかなど、夜が明ければすべてのことが明らかになるのではないかという期待が、緊張感を湛えながら書かれている。若い才能の出現を評価したい。
入選には届かなかったが、知性の輝きを感じた恵矢さんの「溺れぬ若葉」、戸田和樹さんの「トサミズキ」、若い感性が光る高橋実里さんの「渦」、人間的なメッセージがこめられたあいざわえいちさんの「沿道」、東日本大震災を見据えたみうらひろこさんの「三月の伝言板」と木村孝夫さんの「放射能の臭い」に注目した。須藤洋平さんの「光る水母」は現代詩的な技法に優れているが、ヒューマンな本賞の性格に合わなかったのは残念だ。 

自然体で描いた作品/佐々木 洋一

年々酒が弱くなっている。と同じく物事の表裏に対する感性も弱くなっている。それなのに妙に涙もろい。そんな中、今回も素晴らしい作品に触れることが出来ました。
原田さんと予備審査で選んだ39篇の作品は、どれも心のどこかに小骨のように引っ掛かり離れない。その中から何とか10篇に絞り、最終選考に臨みました。
最優秀賞の高橋英司「野道にて」は、自然体で描いた作品。ベテラン詩人のテクニックだけではない、おだやかな流れの中でつかみ取った自然の姿や受け止める人間の呼吸がとても新鮮でした。優秀賞の桐木平十詩子「祈る人」は、病床の夫を通し、自分の内面を静かに見つめ、人の生と死の根源的なありようが読み手の心に沁み入る作品。同じく優秀賞の松本健吾「夜が明ければ」は、若々しい感覚の作品。ぼんやりしたものから立ち上がってくる明確なものあるいは明確にしようとするもの、それが今後の可能性を示唆している。
高橋実里「渦」では、「わたしたちの世界は/ゆるやかな渦」ととらえたやわらかな感性に、これからの可能性を感じました。さらに、書き続けて欲しい。その他では、震災による死がいまだ心の傷痕として残る、みうらひろこ「三月の伝言板」、放射能の恐怖を絡め取り、復興、希望へと繋ぐ、木村孝夫「放射能の臭い」。家族愛、自己愛などをテーマにした心の様々な公叉、戸田和樹「トサミズキ」、里見静江「少し高いところから」、感王寺美智子「失ったもののかわりに」。ふるさと栗原への郷愁、大釜正明「稲藁からの思い」など、いずれも実力的には賞に匹敵する作品でした。
なお、今回は特に「自然」と「人間愛」の作品を念頭に置いたことから、修辞に優れた作品を省かざるを得ませんでした。 

「願いからユーモアまで」/三浦 明博

最優秀賞・大前陽菜子さん「願い」は、人から始まって様々な動物が他の動物になりたいと願い、最後にまた人に戻ってくるという円を描くような巧みな構成の詩だ。特に、好かれたいと願うライオンという視点の意外さには意表をつかれた。
優秀賞・菅原結さん「アシスタントのたけるちゃん」は、姉弟で掃除する場面を書いているが、掃除機をカメや象の鼻に見立てて楽しい雰囲気がたっぷり伝わってきた。優秀賞・菅原蓮斗君「のぼりぼう、できた」は、失敗ばかりだった登り棒に挑戦して、ようやくてっぺんまで上がってみたら、そこにはまるで違う世界が広がっていて感激したという詩。
特別賞・小野寺龍汰君「ある日のこと」は、作者がたまたま小魚をあげた猫が、ある日車にひかれて死んでいたのを目撃し、涙が止まらなかったという心情を描いた一篇だ。特別賞・高橋莉央さん「大切な友人の死」は、友人に見立てた大きな木に雷が落ち、枯れてしまったことへの思いをつづっている。特別賞・熊谷遥人君「自然」も、家の近くを流れる小さなありま川に、しばらく見なかった蛍が戻ってきたよろこびを書いたもの。審査員奨励賞・石野美宙さん「鳥よ」は、空高く飛ぶ一羽の鳥に自分を重ね合わせて、在るべき場所を目指すという雄渾な詩だ。
選にはもれたが、菅原みくさん「傍観者」のユーモア感は好きだし、本田陽夏さん「うちの家族」の動物のたとえも笑えた。他には、塚田裕斗君「木」、木村僚甫君「ふゆの夜」、須藤茉桜さん「私の幸福」、近藤帆乃夏さん「スイッチ、オン・オフ」、豊永愛夏さん「ぼくは」、佐藤日里さん「大丈夫」、小野寺七海さん「送りあおう、求めあおう」、阿部夏季さん「かごの中の私」なども興味深く読んだ。 

大人になるということ、詩を書くということ/渡辺 通子

今回は、北海道から九州・沖縄までと全国からの応募があり、小中学生の部も全国レベルの賞になりつつある。栗原市内や近隣地域からは、学校、学年全体として取り組んだ応募があった。喜ばしいことである。他県からの学級全体としての応募も増えた。したがって、応募作品のレベルも向上しており、賞に選ばれた7篇は甲乙つけがたかった。
最優秀賞「願い」(大前陽菜子)は定型詩。
人や木や生き物に託しながら叶わぬ願いを詠った秀逸な作品である。
優秀賞「アシスタントのたけるちゃん」(菅原結)は、掃除機を使って姉弟が仲良く掃除をする様子を愉快な比喩で楽しく表現した。
「のぼりぼう、できた」(菅原蓮斗)は、のぼり棒の訓練を詩にしたもの。のぼり棒のてっぺんまで登った達成感と感動が空の色やトンボの描写によって表現されている。
大人になるにつれて遭遇することになる喪失の哀しみや空虚感を詩にした作品にも秀逸なものが多かった。特別賞「ある日のこと」(小野寺龍汰)は、登下校の途中で目にした一匹の野良猫と少年のふれあいを詩にしたもの。衝撃的な喪失体験を詩に昇華した。「大切な友人の死」(高橋莉央)。校庭には樹齢を重ねた大樹があって、いつの時代にも子ども達の遊び場であり憩いの場となる。「自然」(熊谷遥人)は近所の有馬川に生育する蛍を見守る詩。自然愛、家族愛を詠ったもの。
奨励賞「鳥よ」(石野美宙)は、思春期の不安を詠んだ作品。考え抜くことで、人は本当の大人になる。
その他、「私は父がきらいだ」(圓谷佳愛)、「ここにおいで」(小島桜稀)、「私の幸福」(須藤茉桜)、「かごの中の私」(なみだうさぎ)、「オニヤンマ」(柳澤萌愛)「夜空にうかぶおかしたち」(土居拓永)、「冬の夜」(木村僚甫)も印象に残る作品であった。

このページに関する問い合わせ先

栗原市立図書館

郵便番号:987-2252
住所:宮城県栗原市築館薬師三丁目3番1号
地図を見る

直通番号:0228-21-1403
ファクス番号:0228-21-1404

このページに関するアンケート

このページは見つけやすかったですか?
このページの内容は分かりやすかったですか?
このページの内容は参考になりましたか?