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トップページ > くらしの情報 > 子育て・教育・スポーツ > 白鳥省吾記念館 > 「自然」の詩、「人間愛」の詩。白鳥省吾賞 > 第23回白鳥省吾賞の結果 > 審査員選評を読む

審査員選評を読む

更新日:2022年1月31日

詩の映し出す内省の時間/川中子 義勝

  コロナ禍のため外出を控える日々が続く一方、自分と向きあう時間は増えました。応募作品にも内省から生まれたものが多くあります。最優秀賞に選ばれた為平澪さんの「残照」も「内なる時間」を主題とする作品。人生の労苦としがらみに疲れ、むしろ独りを欲する母の姿に、娘は、育まれた記憶を振り払って絆を断った過去の自分を思いかえしています。近づいた終焉の時が母の一生を刻印しつつ、全てを消し去っていく。一日を限る落日に、母と同じように、娘もまた孤独な姿で照らされている。家族愛の屈折した発露を描きつつ、ついに結びえぬ人間同士の孤絶にまで迫ってゆく表現は巧みです。優秀賞に選ばれた雪柳あうこさんの「十月の桜」は、不自由な体のため収容されている人々を尋ねた記憶を綴った作品。尊厳を奪われて施設に生きる人々の夢や願いの象徴として、狂い咲きの桜は、五体満足の能力と美しさのみを評価する社会(や自分)へ問いを突きつける。自然と社会の齟齬を、明るい桜で逆説的に表現する仕方は巧みで、読者にも自己を顧みさせる訴えを潜めています。もう一人の優秀賞、久保田智子さんの「あかい実の成るころ」は、日常的な言葉で、一本の楊梅にまつわる印象的な思い出を三つ、挿話のように重ねてゆきます。挿話はどれも色彩豊かですが、終連の、切り株と小さな白い靴の対比が鮮やかで、爽やかな希望をも感じさせます。内向きの作品が多い中で、自然と結んだ広やかな世界へのひらけを感じました。「ふるさと賞」、高橋結衣さんの「私と私」は、「謎かけ詩」です。全ての詩がこの様式で書けるとは限りませんが、作品を構成しようという清新な意欲にまずは惹かれます。審査員奨励賞、「まがたま」さんの「今を生きる」は、空との対話から受けとめるという趣向で大切なことを確認しています。コロナ禍の日常に負けない意志を込めた、若々しさが訴える作品です。高橋さんも含め、若い二人の今後の作品に期待しています。

 

それぞれの現実と真摯に向き合う/原田 勇男

   最優秀賞は為平澪さんの「残照」。実家の両親を見送り嫁いだ先の父母と夫を看取って年老いた母が「一人暮らしをしたい」という願いを最後に訴えた。そんな母を振り払って家を出た私。母と娘のすれ違いの日々を見つめる。触れたくないような現実を直視している点が出色だと思う。
   優秀賞は雪柳あうこさんの「十月の桜」。十月なのに桜が咲いた。体が不自由な人たちのためのコロニーでは光に満ちた庭に桜の樹があった。施設で暮らす人たちの苛酷な日々。現代社会が心身の自由を奪い、尊厳も抵抗も失って枯れていくだけの悲劇。人間の終末はこれでいいのかという問いと向き合った真摯な作品である。
   同じく優秀賞は久保田智子さんの「あかい実の成るころ」。老婆の話によると終戦のころは食糧難で国民は欠食状態に苦しんだが、どの村も楊梅の木には恐ろしいほど実が成ったという。食べられるものは何でも口に入れた時代だった。今は楊梅の木の切り株に白いベビーシューズが乗っていたというユーモラスな思い出もある。
   今年度から新しく設けられたふるさと賞(栗原市在住者)は、宮城県迫桜高校2年・高橋結衣さんの「私と私」が選ばれた。良いことがあると悪いことが、その逆もある。皆それぞれいろんな何かがあるが、それでも毎日を過ごしている。自分を世の中のさまざまな人や出来事と比較しながら、青春をみずみずしく生きている。
   審査員奨励賞は、まがたまさんの「今を生きる」。未知のコロナウイルスが世界中を席巻する現在、「これから先、世界は、日本は、私はどうなる?」と苦しむ女子学生。彼女が空にあとどのくらい未来を生きるつもりかと問う。空は未来という概念などはない。あるのはこの瞬間を空としてどう生きるかだ。「今この瞬間が全てなのだ」。今の現実を精一杯生きることを彼女は学んだ。


ふるさと賞が設けられたこと/佐々木 洋一

   一次審査を通過した四十七編の作品に点数を付け、点数の高い順から作品を絞って最終審査に臨みました。全体としてコロナ禍の影響もあり、内に閉じ籠った作品や肉親の死、病からの克服など個人的な拘りが強い作品が多かったように思います。各々が持つ重いテーマに読み手の一人として強く惹きつけられました。最終的には、母親への思いが作者の揺れる心情の中で鮮やかに蘇り、はっきりとイメージ化された為平澪「残照」を最優秀賞に選びました。優秀賞の雪柳あうこ「十月の桜」は、障碍者コロニーで生を終える人間の存在への問いをしっかりと見据えていました。同じく優秀賞の久保田智子「あかい実の成るころ」は、楊梅の木から思い出される懐かしい出来事と白いベビーシューズの新しさとの対比が印象的でした。
   今回から地元在住者の作品を対象にふるさと賞が設けられました。足元をしっかりと見つめ育てていくことも大切です。ただ、残念なことに今回の作品からは衝撃を感じることが少なかった。これまで地元から応募された作品には優れたものが散見されたので、今回はたまたまそういった結果だったのかもしれません。そんな中にあって、地元高校生の二作品を候補に選び、高橋結衣「私と私」をふるさと賞と決定しました。作者の中で、私と別な私が葛藤する気持ちを率直に書いていて好感が持てました。後藤菜那「期間限定」は、すべての出来事は期間限定の中で移り変わっていくに過ぎないという虚無的な感覚が面白かった。二人にはこれからも是非書き続けて欲しい。また、齋藤茂登子「つながりつなぐ」は、故郷とのつながりを軽快なタッチで描きふるさと賞にふさわしかったのですが、市外在住のため選外となりました。審査員奨励賞のまがたま「今を生きる」は、若い力強い意思で人間のありようを切り取っていて力量を感じました。
   今回も四十七編の素晴らしい作品に出合えたことに感謝したい。
    

小さな発見を伝えること/三浦 明博

   最優秀賞・蜂谷杏琉さん「はじめての海」は、初めての海水浴の様子を書いているが、引き波でかかとの砂がとけていく感触や、波にのまれて見た水中の海草など、全身で感じたことがよく伝わってくる表現に感心した。
   優秀賞・菅原詩さん「全てはつながっている」は生と死を見つめつつ、人が星の一部になるという科学的な視点で捉えたところがいい。優秀賞・大場直樹君「か」は短い詩だが、蚊に刺されるのは嫌だから、自分の血を吸えばいいんじゃないという表現の新鮮さがほほえましい。
   特別賞・内山芽泉さん「殻」は、コロナ禍に置かれる現状を蝉の抜け殻とダブらせ、早く殻から出たいと切望し、ラストでとりあえず宿題をやっつけるかと笑いで終わらせたのがうまい。特別賞・菅原綾菜さん「15分間の楽しみ」は、登校する自転車での15分間を描くが、どこかから香ってきたしょう油のにおいに煮物やしょう油汁まで連想する想像力に驚いた。特別賞・AKAMAMUSIさん「錯覚の景色」は、友達と一緒に自転車で走っていたら、いつもの景色なのに違う町に来たような錯覚を感じた、というもので共感できた。
   審査員奨励賞・松尾奈夏さん「過ぎ行く歌」は、噴火する山から自然の怒りを感じ、自ら自然について考えようとする姿勢が、審査員奨励賞・佐藤玖咲さん「晴れ時々曇り所により大笑い」は、一日の自分の感情の揺れを天気予報になぞらえて表現したアイディアが、審査員奨励賞・千葉瑠奈さん「ガラス越しのメッセージ」はガラス窓にへばりついたかえるからメッセージを感じとるセンスが、それぞれ好ましく評価につながった。
   他にも、輿茂田真子さん「庭と私」、溝口奏真君「ぼくのいもうと」、佐々木あいらさん「言葉の海」、澄月亮君「明け方の月」、黒澤結人君「ぼくのお父さんはコックさん」、中村真麻さん「私の島」が印象に残った。



子ども達はコロナ禍の中の自然愛や人間愛をどう詩うのか/渡辺 通子

  応募総数は628編あり、一次審査で24編が残った。本審査では11編に絞って選考した。近年、応募作品は数質共に向上しており、中学生の作品のレベルが全般的に高くなっている。
   最優秀賞「はじめての海」(蜂谷杏琉):初めて海で泳いだ時の感動を感性豊かに表現した。波が引く時の足裏の感覚、海中の様子が、家族愛と共に巧みに表現された。時代が変わろうとも世代を超えてつながる感動である。
   優秀賞「全てはつながっている」(菅原詩):コロナ禍は子ども達にとっても生や死を考える契機となった。人は死んだらどうなるのか―作者の問いは、自然の法則の中に生きる人間存在を浮かびあがらせて読む者の心に深く迫る。
   優秀賞「か」(大場直樹):「じぶんのちをすったらいいんじゃない」という話し言葉の表現がいい。素朴で何気ないひと言だが、作者の腹の底から湧いて出た思いである。
   特別賞「殻」(内山芽泉)もまたコロナ禍で休校や自粛を迫られた中から生まれた作品である。友人や家族への愛がソーシャル・ディスタンスという「微妙な距離」で閉ざされがちな現実に生きる切なさを切々と読んだ。「15分間の楽しみ」(菅原彩菜)は、登校途中の自然や人間の営みを明るく読んだ。「錯覚の景色」(AKAMAMUSI)は、学校という日常の公的な場を離れ、友人と自転車を漕ぐ様子を読んだもの。「一人では味わえない開放感」や疲れと心地よさが共存する感覚もまた友情と呼べるものだろう。
   奨励賞「過ぎ行く歌」(松尾奈夏)は雲仙岳の噴火のさまに、自然の怒りの感情を見いだしたもの。自然への畏敬を一語一語吟味して表現した。「晴れ時々曇り所により大笑い」(佐藤玖咲)は一日の生活と自身の心情を天気予報風に明るく表現した。「ガラス越しのメッセージ」(千葉瑠奈)は、ある日、ガラス越しに見つけた一匹の蛙から得た自身の決意を語ったもの。その他、方言を巧みに取り入れた「私の島」(中村真麻)、愛着のあるエレキギターを処分した後の空虚感を読んだ「明け方の月」(澄月亮)も印象に残った。

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