小・中学生の部【審査員奨励賞】過ぎ行く歌／松尾 奈夏
更新日：2022年1月31日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬称略
過ぎ行く歌／松尾 奈夏
地獄である 地獄である
癒しの風が駆け抜けることはない
空気が揺らめく ふわふわとした夢遊感
ただ 地面の生々しさを除いて
業火に燃えた岩肌は 消えぬ瘡蓋で
黒く、ただひたすらに黒く爛れている
ガラス細工にするように そっと触れてみる
カサリ、指先の熱に 深淵の怒りを思わす
雲仙岳とは名ばかりの 地球の激しい怒号
君は何に怒っているの？
答えは 砂糖菓子を溶かすほど簡単
灰色の森に降り立って 木々の緑を思い知る
黒スプレーを噴き上げて 空の青を思い知る
重箱が光をまき散らして 星の白を思い知る
嗚呼、なんとも惨めな後手後手だ
固まった全身をほどくように 上を向く
燃える怒りに 悲しみの雫は似合わない
太陽は嘲笑うようで 届きやしない
拙い、遥か一色の空 ああ、青信号だ
私たちはとうに迷子で 行く当てもない
だからこそ 自分の信じる前に進んでいく
蟻なら蟻なりの一歩を より多く踏み出す
転んで土の味を知っても また立てばいい
嘆くな ながぁくそびえ立つこの山のもとで
無駄にするな 後手後手で悲惨な私たちを
土の中で朝日を待つ種子たちに
迷える時間はあるのだろうか
あおい涙の惑星を コンクリートで覆うとき
私たちは何を知るのだろうか
私たちは何を変えていけるのだろうか
分からない 何も 分からない
ただ この壮大で強大で寛大な自然と
対等に笑いあいたいと思う
そのために歩み続ける 私でありたいと思う