一般の部【審査員奨励賞】今を生きる/まがたま
更新日:2022年1月31日
受賞作品を、原文のまま掲載します。
本文に読みがなを( )書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
注:敬称略
今を生きる/まがたま
止まない雨はないと そんな偽りの言葉はもう 誰の心にも響くことはなくなっただろう
未知のウイルスが世界を侵して一年半
連日耳にする言葉は「過去最多」
心を打ちつけるどしゃぶりの雨は 弱まるばかりか 日に日に激しさを増している
「これから先、世界は、日本は、私は、どうなる?」
いつの時代も人々は 先の見えない未来に怯え震えている 未来とは 今を生きる者を呪う悪霊か いや違うと空は言う
気が遠くなる程の永遠を 空は変わらず其処に在り続ける 五十億年前に宇宙の何処かで星が大爆発を起こした時、地球は漆黒の巨大な空間の中にその姿を現した そして地球の天面には空という水色の広大な面積が生まれ それは何十億もの年月を同じ位置で過ごしてきた
私は空へ問う 君はいつまでも其処に居て辛くないのかと 君はあとどのくらいの未来を生きるつもりなのかと
空は答える 私に未来という概念などない あるのは今この瞬間を空としてどう生きるかだと
今 晴れて光を地表へ送り届けるべきか
今 雨を降らせて土壌を潤わせるべきか
今 雪を降らせて空気中の塵を絡め取るべきか
今 雷を落として稲の豊作を促すべきか
空曰く 今この瞬間に 全てのエネルギーを使っているらしい
同様に 本来人間にも未来という概念はないと空は言う 狩猟が生きる唯一の手段であった原始の人間は 今日(こんにち)の食料を得るために 巨大な猛獣と戦ってきた 彼らは一瞬一瞬を生きることのみに心血を注いできた
「今この瞬間が全てなのだ」
そう空は私に力強い眼(まなこ)で言い放った