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トップページ > くらしの情報 > 子育て・教育・スポーツ > 白鳥省吾記念館 > 「自然」の詩、「人間愛」の詩。白鳥省吾賞 > 第21回白鳥省吾賞の結果 > 審査員選評を読む

審査員選評を読む

更新日:2020年2月25日

白鳥省吾の詩精神を嗣いで/川中子   義勝

   巷に詩人の名を冠した賞は少なくない。その中でも、詩人が自ら抱いた志や、その詩の精神を選考の目安として掲げる点で、「白鳥省吾賞」は稀有な存在といえる。白鳥の郷土愛に応えて、その詩精神を新たな時代に受けとめるべく、「自然」の詩、「人間愛」の詩を募り、優秀作品を顕彰する。選考委員長の務めを引き継ぐにあたり、すでに二十回に亘る賞の役割と来歴を顧みて、選考の場に臨んだ。今回、一般の部で最終選考に残ったのは三十九編。それらについて、一作品毎に選考委員が評価を述べる仕方で検討した。そこで残ったのは十二編。そのどれかを抜きんでた作品として選考委員の誰もが推すという形には到らなかったが、それぞれの作品が心を惹くものを備えており、選考には時を要した。
   照井良平氏の「訛る田んぼアート」は、稲作を文化の観点から扱う。広く「自然」の詩に属する作品と言えよう。方言や感嘆詞を連ねて語りかける言葉には弾みがあり、読者はその軽快な進行に惹きつけられる。主題は、郷土の「稲作文化」への「誇り」。「ほごり」など、方言の響きと抑揚が、地に根付いた訴えとして利いている。稲穂の描く図像を俯瞰する視点からは、作者自身が農の経験を踏まえているかどうかは窺えない。しかし狭い「私」への執着を離れ、読者を楽しませつつ、共にする言葉の空間を紡ぐ詩の姿勢を評価し、最優秀賞に相応しいとした。優秀賞はお二人。木村孝夫氏の「海を背負う」は、震災と津波という主題に固執し、どこまでも迫る。実体験からの想いが伝わってくる作品。南雲和代氏の「阿賀野川・挽歌」も、季節の転換とともに過去を回顧し、出来事と問題(公害)を凝視する。誠実なレアリズムが訴える作品である。以上の方々は六、七十代で、それぞれの詩歴を担っておられる。一方、審査員奨励賞を受けた佐々木優子さんの「心の夜明け」は、心の姿を素直に述べる真摯な姿勢に、将来延びてゆく豊かな可能性をみとめた。

方言で綴るユニークな田園風景/原田   勇男

   照井良平さんの「訛る田んぼアート」は方言の気仙弁を駆使して田んぼの風景と稲作の歴史を掘り起こしたユニークな作品である一般の部応募総数七七二篇の中で、唯一方言を使った独創性にあふれ、田んぼアートを題材にしながら、読んでいて大地の匂いと農民の暮らしが漂ってくる個性的な詩篇だった。自然と人間愛に満ちた白鳥省吾賞にふさわしい力作だと思う。
   木村孝夫さんは東日本大震災以来、一貫して震災詩を書き続けてきた福島県いわき市在住の詩人である。「海を背負う」は震災で被災した体験を見過ごすことなく、自らの内部と被災地の現在を深く見据えながら、言葉を通して誠実に向き合っている。震災の風化が懸念されているが、未だに震災の海を背負って生きている被災地の人々の心とくらしを看過してはならない。
   南雲和代さんの「阿賀野川・晩夏」も公害問題を取り上げている。阿賀野湾の河口から六〇数キロ上流の昭和電工の工場から流されたメチル水銀化合物による第二の水俣病が発生し、河口の漁民たちが被災した。三千人の工場労働者を雇用した加害者側と事実を言えなかった被害者がその後対立し、長い裁判が続いた。上流で見た鹿瀬工場と自分の思いを乗せて、夏の終わりを表現している。
   佐々木優子さんの「心の夜明け」は、十七歳の高校生が書いたみずみずしい作品。悩みを抱えて森をさ迷った少女が、湖で白鳥に出会い、自分の生きる道を見出すさわやかな詩篇である。白鳥と出会う場面や白鳥の生態、そして飛び立っていく白鳥の姿がよくとらえられていて印象に残った。若い人にふさわしい未知の可能性と今後の作品に期待し、審査員奨励賞に推薦した。


幅広い年代の多様な世界/佐々木   洋一

   いつもの事ですが、最終審査に残った39編の作品の中から数篇を選ぶことはとても難しい。今回、17歳から88歳までと年齢に幅があり、漲った若い感性、病に立ち向かう夫婦の信頼、未だ拭い去れない震災の痛み、孫への深い愛情が感じられる作品など、魅力溢れた多様な世界が展開されていました。審査では、最初に12編を選び、そこから議論を重ねました。
   最優秀賞の照井良平「訛る田んぼアート」は、ベテランの書き手である作者の、方言などを意識的に用いた技巧的な作品。田圃の稲を使い絵に描く新しいアート、地域活性の行事から稲作文化を探った意欲作で、達者です。優秀賞の木村孝夫「海を背負う」は、福島に住み、震災後のあり様をずっと見続けてきた中の1編。今回も簡潔な手法で、震災に対する心の波動を的確に表現しています。作者のずっと変わらない姿勢、一貫した人間存在への思いは信頼できるものでした。同じく優秀賞の南雲和代「阿賀野川・晩夏」は、衝撃を受けた作品。体験を通した公害問題への批判や人間の矛盾する心のあり様に鋭く切り込んでいます。もう1編の「深夜の病院に泣く」は、ラムゼイハント症候群という貌喪失(作者の表現)を発症した絶望感と台風接近による緊迫感が、時間の経過とともにシリアスに捉えられています。胸が抉られるような2作品でした。審査員奨励賞の佐々木優子「心の夜明け」は、17歳の高校生らしい作品。様々な悩みの中から白鳥の姿を通し、未来への希望を発見します。みずみずしい感覚で捉えられた白鳥のしぐさは、とても新鮮でした。これからもしっかりと描き続けて欲しい。
   これまでに優秀賞を受賞している島田奈津子「端役」など何編かは、実力的には最優秀賞作品と遜色がありませんでした。外に、時間をメルヘン的に表現した桑田窓「雨の向こうの時計店」や孫への愛情が微笑ましい清崎進一「無垢」の終連の捉え方は、見事でした。

ヤマガラからリコーダーまで/三浦   明博

 最優秀賞・向井陸君「ヤマガラの声」は、ひいおばあさんの家へ通った十年で、かわいい豚がいた養豚場は空っぽになり虫の声も少なくなったが、ヤマガラの声とぴっちゃんは変わらない、という存在の確かさが心を温かくしてくれる。
   優秀賞・赤間葵さん「ザリガニと自然」は取ったザリガニを逃がそうとしたら、母親から外来生物だからダメといわれて困るようすを描き、悪者は人間じゃないかという問いが鋭い。優秀賞・石野美宙さん「結(むすび)」は、大切にしまわれたへその緒を通して、自分が生まれた時の母娘の状況を感動的に書いていた。
   特別賞・千田弦季君「まごもつらいな」は、手伝いで頼りにされるけど嫌な時もあるという気持ちの動きをていねいに書いた。特別賞・菅原響さん「ただ鮮やかに」は思春期ならではの、ゆれ動く自分の心を描いている。特別賞・戸田青依さん「小さな発見」は、タイトル通りに日常の小さな発見を楽しもうとする姿が好ましかった。 
   審査員奨励賞・千葉奈菜さん「部屋」は〈蝶の音響〉〈虹の影〉など言葉選びのセンスと対比に感心した。審査員奨励賞・山田陽輝君「死にカンガルーに死にタヌキ。」はタイトルが斬新で、少年から青年へ向かう葛藤が見えた。審査員奨励賞・大恵貴子さん「時計のはり」は、時の進みとおばあさんの老いとをうまく重ね合わせて表現していた。
   選にはもれたが、小野嶺花さん「蛍カゴとひいおばあちゃん」は柔らかな視線と丁寧な観察眼、平田一華さん「弁当戦争」は弁当との戦いを団体戦にして描くユーモア、千葉ひなほさん「リコーダーのひみつ」は題材と視点の新鮮さ、高岩恭子さん「ないてもいいんだよ」は人と動物を同じ目線で考える思いやりの心、大場隼太郎君「大きくなったら何になる」は子どもらしい豊かな想像力と楽しさが、それぞれ心に残った。


詩の言葉を鍛えよう/渡辺   通子

  今年も全国からの応募があり、総数は若干減少したものの第一次審査を通過した38編は秀逸であった。いずれも本賞のねらいである自然や人間愛について、令和の新時代を、未来を生きる小中学生の目線で詠まれた作品である。
  最優秀賞「ヤマガラの声」(向井陸)僕と曾祖母との心の交流を詠んだ詩。この地方では、曾祖母に敬意を込めて「ぴっちゃん」と呼ぶ。子どもの成長は早い。照れや自負を背負いながら、少年は僕から俺になる。ぴっちゃんが愛用するアロエ軟膏の匂いは、土や草の匂いの記憶と共にある。黄金の稲穂、虫の鳴き声、軒下に吊された干し柿・・・等、曾祖母の住む山の自然描写は郷愁を漂わせ、この詩全体を流れる。
  優秀賞は2編。「ザリガニと自然」(赤間葵)ありがちな自然観賞にとどまらず、わき上がる疑問を投げかけながら環境保全や生き物たちの命を中心に据えた作品。ワシャワシャという擬音語を巧みに用い、ザリガニ達のリアルな姿を描きだす。「結」(石野美宙)桐の箱に収められた私の臍の緒を通して甦る14年前の母の命がけの出産を詩にした。語り継がれる命の誕生の記憶の奥底で、ひっそりと甦る母子の紐帯の深さを思わせる。
  特別賞は3編。「まごもつらいな」(千田弦季)三世代の家族のなかで生活する作者にとって、魔法の言葉は「ありがとう」。この語に込められる感謝の心を知るからだ。もう一つは「イオンへ行くよ」。作者の心は、ひと言に込められる意味の深さの間を揺れ動く。「ただ鮮やかに」(菅原響)人間世界の理不尽を知った作者が、それでも、ひたすら声をかけてもらうのを待ち続ける、願いにも似た思いを一本のオオバコに託した詩。あたりを吹き渡る風の変化の描写がこの詩を確かなものにしている。「小さな発見」(戸田青依)四連仕立てのこの詩の素材は、日常生活の中でふと目にした風景である。ものの見方が変われば心持ちも変わるもの。
  奨励賞は3編。「時計のはり」(大恵貴子)歳月の流れは、一方で子どもの成長を促し、他方で大人の老いを促す。日ごとに記憶を薄れさせてゆく祖母への限りない哀しみと愛情を読んだ詩。「死にカンガルーに死にタヌキ」(山田陽輝)周囲にある自然と自分の願望との間に横たわる心の葛藤を巧みに表現した。「部屋」(千葉奈菜)勉強部屋の風景だろうか、机上の文具が整い、学びへ向かうまでのもやもや感を現実の風景と心象風景とを織り交ぜて表現した。
  その他「ないてもいいんだよ」、「生まれたての水」、「リコーダーのひみつ」、「水たまり」が印象に残った。

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