一般（高校生以上）の部【審査員奨励賞】心の夜明け／佐々木 優子

受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬称略

心の夜明け／佐々木   優子

雪解け近い北の国   眠れない夜をいくつも過
ごし   夜明け前   まだ薄暗い空の下   冷たく
深い霧に包まれた   黒い森に迷い込んだ
白い霧をかき分け   悲しみを苦しみをかき分
け   不条理や理不尽   不幸も不安もかき分け
過去も今もかき分け   どこに行くわけでもな
く   あてもなく   ふらふらと彷徨う
小雪混じりの風が   頬を伝う冷たい涙をも凍
らせた   私の心も氷点に達していた
突然   視界が開けた   残雪の残る湖のほとり
そこは白鳥の湖   ピンと張り詰めた早朝の湖
そこには   何十羽という美しい白鳥たちがゆ
らゆらと揺れる水面で   優雅に舞っていた
一匹の白鳥が、つぶらな瞳で私を見つめた
私の心の声に耳に傾け   ゆっくり首を上下に
振って   頷いてくれた   そして   黄色いくち
ばしを開いて   コオー、コオーと   語りかけ
てくれた   声はどんどん大きくなり   他の白
鳥たちも加わって   一斉に鳴き始め   やがて
大合唱となって   私の心を震わせた
あたたかな声は   早朝の澄んだ空気の中響き
わたり   私の頑なな心は   湖に張っていた氷
と共に   つうっと溶けていった
やがて朝日が昇り   辺りが明るくなってきた
一匹の白鳥が   水面を滑るように   水かきを
動かし   すうっと走って   ふわっと宙に浮い
て   大きく翼を広げ   大空に羽ばたいていく
それが合図のように続いて次々と飛びはじめ
他の白鳥たちも群れを成して羽ばたいていく
遠いシベリアへ旅立つのか   もう春なんだ
ふと振り返ると   朝靄も綺麗に消えて   一本
の道が   私の前に   はっきりとあわられた
私の頬には   あたたかい涙がぽろりと零れた
優しい   朝日がキラキラと   白鳥たちが飛び
立った湖を飾り   進むべき道を教えてくれた
見上げた青空には   小さくなった白鳥たちが
力強く飛んでいった   ありがとう
私は顔を上げ   大きく   一歩を踏み出した