小・中学生の部【最優秀賞】ヤマガラの声／向井 陸

受賞作品を、原文のまま掲載します。
編集の都合上、すべて横書きにしています。
注：敬称略

ヤマガラの声／向井   陸

ぼくのひいおばあさんは山の上に住んでいる
黄金の稲穂をつけた田んぼを通って
かわいい豚がいる養豚場を通って
虫達が騒いでいる山道を登っていく
土の匂いと草の匂いが充満している

散歩道で見つけただんごむし
近所の軒下の干し柿
「ぴっちゃんみたいだね」とぼくが言うと
ぴっちゃんは声をあげて笑った

働き者のぴっちゃんの手は
いつもアロエ軟膏でべたべたで
ぼくは手をつなぐのをためらった

あれから十年が経った
ぼくはオレになり   背も伸びた
ぴっちゃんは髪が白くなり   小さくなった
オレは悲しい
年を取り続けるぴっちゃん
空っぽの養豚場と虫の声が少なくなった山
オレは嬉しい
いつもどこからか聞こえてくるヤマガラの声
変わらず笑顔のぴっちゃんと
今年も実ったつやつや野菜

「ぴっちゃん気をつけて」手を取ると
「助かるなあ」とつぶやいた

日の当たる縁側に座って空を見た
手からアロエ軟膏の香りが立った

「柿むいたから食べらいん」
台所からぴっちゃんの声
オレの「はーい」という返事が
ヤマガラの声と共に空に響いた