4ページ Interview あなたに届けたい、私のさをり織り。  織機の「カッタン、カッタン」という小気味良い音が、室内に響きます。ここは、障害福祉サービス事業所すぷりんぐ。利用者が、真剣な表情で織機に向かっています。  ここで織られる色とりどりのさをり織りは全て、利用者のお手製です。生産活動でさをり織りを担当する鈴木さんと小岩さんに、魅力や思いを伺いました。 小岩 千尋(こいわ ちひろ)さん(金成下片馬合) 鈴木 由美(すずき ゆみ)さん(若柳有賀) さをり織りを始めたきっかけを教えてください [鈴木さん]最初は、すぷりんぐに併設する喫茶店で接客などを担当していました。しかし、体調などの理由から、さをり織りの担当になりました。それが10年くらい前の話になります。 [小岩さん]私も、10年ほど前にすぷりんぐを利用するようになってから、さをり織りを始めました。機織りの経験がなく、最初は難しいと感じることがありましたが、今ではすっかり慣れました。それでも、完成するまでは、思った通りに織り上がっているか、今でもドキドキすることがあります。 さをり織りの魅力を教えてください [鈴木さん]1枚の布の中にたくさんの色を取り入れられるので、織っていて楽しいです。また、自分で織った布をすてきなバッグに加工してもらえた時は、とてもうれしく、頑張ってよかったと思います。 [小岩さん]好きな色の糸を使って布を織れることです。私はピンク色が好きなので、よく使っています。丁寧に織り続け、思い通りの柄に仕上げられたときは、うれしいです。 織るときに工夫していることはありますか [鈴木さん]さをり織り製品を使う人の笑顔や喜ぶ姿を思い浮かべながら、丁寧に織り進めています。布の形がゆがまないよう、縦横それぞれの糸の両端をきっちり整えることを、特に意識しています。 [小岩さん]織り目が均一になるように心がけています。織り目の隙間は、横糸を整えるために打ち込む「筬(おさ)」という道具を使うときの力加減で変わってきます。力が強すぎると間隔が狭くなり、思ったような柄が出ないので、丁寧に打ち込んでいきます。 今後の目標を教えてください [鈴木さん]これからも丁寧にコツコツと織り続けていきます。さをり織りってすてきだなと思ってくれる人、製品を使ってくれる人が増えたらうれしいです。 [小岩さん]たくさんの種類の糸を使ったさをり織りを織ってみたいです。飾りがついた糸や、キラキラした糸などさまざまで、組み合わせが大変ですが、挑戦してみたいです。 5ページ 【特集】織りなす、いと、ひと。~世界に一つだけの「さをり織り」~ 写真 ①力加減を調整しながら筬(おさ)を打ち込む小岩さん。 ②白いガイド線に沿って、コースターを織り上げていく。 ③完成したコースター。2人で協力して年間100枚ほど織り上げ、注文を受けた企業に納品している。 ④横糸を巻く様子。 ⑤筬に糸を通す作業は複雑なため、事業所の職員がサポートする。 ⑥完成したさをり織り。さまざまな色の糸が調和している。 ⑦さをり織り用の糸の一部。好きな糸を作り手が組み合わせて、織り上げていく。 さをり織りが結ぶ縁  さをり織りを製品加工する岩渕さん、製品を愛用する伊藤さんに話を伺いました。 洋裁ボランティア 岩渕 明美(いわぶち あけみ)さん(一関市在住)  製品に加工する際は、布をじっくりと眺めて、どのような形にしたら手織りの風合いや、かわいさが表現できるかを考えます。  また、布の切れ端はボタンやブローチに加工し、作品のアクセントとして無駄なく使います。  手に取った人が温かい気持ちになれる作品を、これからも作り続けていきたいです。 さをり織り愛用者 伊藤 京子(いとう きょうこ)さん(若柳かけ)  6年ほど前から、さをり織りのベレー帽を愛用しています。夫と共に手作り弁当の宅配サービスを行っていて、ベレー帽は配達の際に被っている、大切なパートナーです。被ると仕事を頑張るエネルギーがわいてきます。  さをり織りに関わる人の優しさが、身に付ける人の気持ちを前向きにしてくれるのだと思います。 糸と人が織りなす先は  「さをり織りは、さまざまな垣根を越えて人と人の心を結んでくれる」と話す、すぷりんぐの二階堂所長。その言葉のとおり、さをり織りは、施設を利用する人たちの活躍の場を広げるだけでなく、作品を通じた心のつながりを生む、大切な存在です。  今回の取材を通じて特に印象的だったのは、さをり織りへの思いを語る人たちの笑顔。誰もが明るく優しい笑みを浮かべ、その魅力や今後の目標を語ってくれました。そこには、障害による垣根はなく、作品そのものを愛おしむ純粋な思いと、それぞれの個性や特性を受け入れ合う姿がありました。  さをり織りを手にしたときに心がほっと温まるのは、そうした思いが糸と一緒に織り込まれているからではないでしょうか。それらに触れ、作り手と使い手の思いが結ばれたとき、さをり織りは世界に一つだけの、特別な作品に姿を変えます。  次に思いを結ぶのは、皆さんかもしれません。この機会にぜひ一度、さをり織り製品を手に取ってみてください。