4ページ  市内で籠作りを続け、数多くの作品を作ってきた佐々木さんに、話を伺いました。 佐々木 次男(ささき つぎお)さん(花山中村) 「もったいない」から始まった籠作り  私は、農業をしながら国有林の維持管理の仕事をしていました。定年退職後、何か新しいことを始めたいと思っていた時に、籠作りに出会いました。  きっかけは、知り合いから、梱包に使われるプラスチック製のひもが大量に余っていて、処理に困っているという話を聞いたことでした。状態も良く、軽くて丈夫なひもをこのまま捨ててしまうのはもったいない、どうにかできないかと考えていた時に、地域の施設で籠作りの講習会があることを知り、これだと思い参加しました。  もともと手仕事が好きな私は、籠作りの楽しさにすっかり魅了されました。最初は、編み方が緩かったり、思ったような形に仕上がらず苦労しましたが、何度も挑戦していくうちに、技術が身に付いてきました。  今では、小さい籠は30分、大きめの手提げ籠は、2日ほどで作ることができます。同じ形の籠でも、組み合わせる色によって全く違う印象になるので、とても面白いです。 工夫を重ねる  籠を作る時は、長く使えるように、自分なりにさまざまな工夫をしています。籠の縁の部分に竹板を入れて補強し、形が崩れにくいようにしています。補強に使う竹板は、自宅の近くに生えている竹を加工して作っています。  再生紙で作られた紙ひもを使って手提げ籠などを作るときは、プラスチック製のひもと違い、水に弱いという性質があるので、防水性の塗料を塗って、強度を高めています。  今まで、たくさんの籠を作ってきましたが、作れば作るほど、改善点が見えてきます。良かったところはさらに良く、もう一頑張りというところは、納得がいくまで突き詰めていきます。もの作りに終わりはありません。 妻と共に  籠を作るときは、妻にアドバイスをもらっています。自分では気が付かないような細かい部分や、色使いなどを女性ならではの視点で教えてくれるので、一人で作るよりも作品の幅が広がります。  また、作業に夢中になると、時間が過ぎてしまうこともあるのですが、そんなときは、妻が「少し休憩したらどう?」と、声を掛けてくれます。 広がる籠の輪  籠は、自分の家で使う以外に、離れて住む子や孫、親戚、地域の人に渡しています。  孫は、背の高い箱型のものを、くず籠として使っているそうです。しっかりと隙間を詰めて編むと、細かいものを入れても中身がこぼれません。沿岸部に住む知り合いからは、カキを洗うのにちょうどいいと好評です。  最近では、地域の若い人に作り方を教える機会があり、まずは、基礎をじっくりと教えました。難しいことをあれこれ教えるよりも、籠作りの楽しさを知ってもらうことが大切だと思ったからです。今では、私が教えた編み方以外も勉強し、籠作りを続けているようです。  若い人が籠作りを始めるきっかけづくりをすることができ、うれしく思っています。 「好き」を続けて  籠作りを通じて、今までたくさんの人の笑顔を見てきました。その笑顔を見ると、もっと良い作品を作り続けていこうと強く思えるのです。  こうして籠作りを続けてこられた一番の理由は「手仕事をするのが好き」という気持ちを、常に持ち続けてきたからだと思います。何事も、好きでなければ続けるのは難しいです。  私は、他にもさまざまな手仕事をしています。どれも初めて挑戦することばかりで、壁にぶつかることもたくさんありましたが、手仕事が好きだからこそ、乗り越えることができました。  これからも、この気持ちを大切にし、できるだけ長く籠作りを続けていきたいです。 5ページ 【特集】籠~手編みの魅力に触れて~ 間近で見る籠作りの技 ①ひもを組み合わせ、底となる部分の基礎を作る。 ②籠の大きさに合わせて、編み目の数を増やし、緩まないようにしっかりと編んでいく。 ③底が編み上がったら、ヘラなどを使って側面になる部分を立てていく。 ④底の形が崩れないように、竹板などで補強し、側面を編んでいく。 ⑤籠の高さに合わせて、段数を増やしながら編んでいき、全体の形を整える。 ⑥余分なひもは、縁になる部分に巻きつけて処理をする。形を整えて完成。 籠を取り扱う店の声  花山地区にある、湖畔のみせ 旬彩(しゅんさい)に話を伺いました。  佐々木さんの籠は、店の営業が始まった3年前から取り扱っています。丁寧に作られた籠は、丈夫で長持ちするため、市内の人だけでなく、観光で訪れた市外の人にも人気があります。  沿岸部の漁協の女性たちが買いに来たこともあるのですが、梱包用のひもで作られた籠は水に強く、カビが生えにくいので、イクラの選別作業をするのにちょうど良いそうです。  また、店では、パンや焼き菓子などの商品を入れるための飾り籠としても使っています。さまざまな色のひもで作られているので、店の雰囲気が華やかになり、商品も映えます。お客さんが、自宅などで籠を使うときの参考にしてもらえたらうれしいです。 手編み籠がある生活  農家の手仕事として受け継がれ、どの家庭でも生活用品として使われてきた手編み籠。時代や生活の変化が進み、プラスチックや金属の籠が普及した現在、その姿を見ることは少なくなりました。  手編みで作られた籠は、すぐに壊れてしまうのではないかと思い、棚の上や物置きにしまったままになっていませんか。  材料や編み方を選び、使う人のことを考えながら丁寧に作られた籠。そこには、手編みならではの風合いや味わいがあります。  栗原にも伝わる手作りの籠をぜひ手に取り、使って、その魅力を感じてみてください。 【参考文献】一般社団法人 農山漁村文化協会「地域資源を生かす 生活工芸双書 竹」、嶋崎 千秋「想いがこもった作家もの+作り方 手作りする竹のかごと器」、栗駒町教育委員会「栗駒町の文化財(第八集)」