受賞作品を、原文のまま掲載します。題名・本文に読みがなを〔 〕書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
※敬称略

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川岸の湿地でニョキニョキと
体毛のように自生する
蕗を夕餉の膳に乗せるとして
ナイフで切り取っている老女に出逢った
漁川はアイヌの住んでいた故郷で
そこに山口県などから多くの入植者を
受け入れた
佇む恵庭開拓記念碑(山口県人会)には
明治十九年四月入植六十五戸の
衣食住全てを欠いた茫々たる生業が
血液の色で刻まれていた
桜も柳も白蓮の花も
北海道の毛根から噴き出た魂は
イザリガワ(石狩川の支流として)を流れて
豊かな乳房を蓄えるように
ソフトボールに興ずる歓声の間隙を縫って
老女に穏やかな夕餉を用意させ
川藻が棚引くような
穏やかな春の風物の風に乗って
そこにアイヌの人影も
開拓のひもじさと病魔の中で
逝ったであろう人びとの陰さえ映さず
犬の散歩に付き添う人びと
煙草の煙をゆったりとくねらせる人びと
それらをパイ皮で包み込んだように
国道を自家用車が行き交っている
ひっきりなしに行き交う
その光景には
何も知らない他人の顔が感じられ
史実から乖離した世の中でも
時系列で生かされている命の
真価や価値を思わずにはいられなかった
見渡す限りの雪原の原野で
開拓団の人びとはそしてアイヌ民族はと
想像してもしきれない鉛の荷車を
押しているような感覚に襲われて
思わず私は漁川橋から後ろを振り返っていた
背後から魂に突かれた者の強迫にも似て