受賞作品を、原文のまま掲載します。また、編集の都合上、すべて横書きにしています。
※敬称略

原文はこちら

父が運転をする。母が助手席に座る。私は後
部座席に座る。
夜の高速道路、走る私たちの真上には真ん丸
のお月様が浮かんでいる。

永遠に続く街灯。父のあくび。母の鼻唄。
スピードはあがっていく。限界など知らない
という風だ。

長いトンネルに潜り込む私たち、既に原型を
留めていない。父も母もアメーバのよう。
ハンドルを握る父の手だけは、かろうじてそ
の形を残している。

トンネルをぬけると、高速道路の長い下り坂
があった。
スピードは加速するのみ。屋根は吹き飛び、
窓ガラスも溶けてしまった。
(私の独り言は終わらない。)
眼下に広がる街の光は、白い渦。夜景に落ち
ていくよう。
エンジンはとうに壊れ、父のあくびは止み、
街灯も夜景に溶けた。
車間距離はゼロになり、母の鼻唄も途切れ、
アメーバは水になる。

夜の高速道路、終わりに向かって加速する私
たち。
宙に浮かぶボウルだけが、静かな傍観者。
茶色のボストンバッグに詰めた物語たちが、
振動にあわせてゆれている。
白く控えめな光が眼下に渦巻き、
今、夜景に落ちていく。