受賞作品を、原文のまま掲載します。題名・本文に読みがなを〔 〕書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
※敬称略

原文はこちら

きのうは4軒、今日は5軒、戸から戸へ
ホームヘルパーはチャリでひた走る
雨降る冬の朝は体が芯まで凍り
真夏は道路の照り返しで
じりじり焼けた鼻の皮がむけた
90分間の炊事や掃除の手助けを
明日も待っている人がいる

きのう一仕事を終えて報告書を書いていると
「タバコを買〔こ〕ぉてきてくれんかなあ」と
高橋のおじいちゃんが言い出した
仕方がない、ひとっ走りする
「さ、あんたも茶を飲んで」と言うので
飲み食いしてはいけないのだが茶をすすり
危険エリアに侵入してきた高橋さんを
スルリとかわし 次へ走る

けさはヒデさんの陰部を洗浄した
もう命を生み出すこともない枯れた陰部に
ヤカンからぬるま湯をゆっくりかけると
かすかに生の匂いが立ちのぼる
「ありがとな ありがとな」
手を合わせてヒデさんはいつもそう言う
突然の別れが訪れたとしても
感謝の言葉はいつまでも心に響くことだろう

夫と別れ 嵐のような暮らしに決別して
ヘルパーは自分の大海原に出航したところだ
五十歳も過ぎて若さは去ったが
待っていてくれる人に
花ひらく笑顔で会いにいく

西へ東へと全速力で駆けるヘルパー
ヘルプ、助けているのか
ヘルパー、助ける人か
人という文字の形をつくづく思うとき
重い生を背負って歩いてきた
あの人この人に
ヘルパーもまた支えられている