受賞作品を、原文のまま掲載します。編集の都合上、すべて横書きにしています。
※敬称略
※文中終盤の ■ は漢字の「も」で、てへん に宛 の1文字(外字のため置き換え)

原文はこちら

四億年を
生態系の頂点で生き延びながら
きょう
鰭という鰭を抉り取られて
身もだえしながら
水底へ沈んでゆく
おびただしい数の


幼い時分に
父親を海難事故で失い
女手一つで育くまれたきみは
海辺の小さな町の医院の受付にいて
治療の済んだ老人を笑顔で見送り
玄関先の路地をたたく
突然の雨に気づくとやおら立ち上がり
傘を手に杖の音を追いかけて行った
驟雨はやがて豪雨になり
すぶ濡れできみは帰って来て
この分では傘位では役に立たないかもしれませんけどね、と
老人を見送ったときと同じ笑顔で
はにかみながら話した

人はやさしいとあらためて思った
けれど人はやさしくて酷い肉食獣だ

まな裏では
やむことのない雨が降りつもって
深海のようにゆらめいている

幽かな光しか届かぬ水域を
今また一頭の
巨大な人間のような鮫が
手足を ■ がれて
傷口から血を漂わせながら
ゆっくりと沈んでゆく