受賞作品を、原文のまま掲載します。
 本文に読みがなを〔 〕書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
 ※ 敬称略

原文はこちら

 白い帽子のIさんは もう

学校の 草の匂いの校庭を歩いていない

湿った芝生や乾いた空

檸檬色の朝 林檎色の夕方

月光に満ちた青い夜

みんな

Iさんの白い帽子に映し出されていた

けれど

長い箒を持ったIさんの笑顔はもう

校舎の窓硝子に映し出されることはない

白い蝶が

噴水の中にかすんでいった

 

白い帽子のIさんは もう

校舎の傷だらけの廊下を歩くことはない

子どもたちの足跡を

満月のような笑顔で拭っていたひと

子どもたちのはしゃぐ声を

白い帽子に包み込んでいたひと

子どもたちの汗で きらめいた砂を

夢の中にしまい込んでいたひと

朝焼けの校舎がIさんの呼吸を覚えている

 

Iさんの白い帽子は

ソーダ色の夏空や ウサギ色の雪景色を

映し出していた

Iさんの白い帽子の中は

子どもたちの夢のパズルで満ち溢れていた

けれど

Iさんは もう

校舎の窓硝子を透明に磨いてはくれない

子どもたちの落とした声を

拾い上げてはくれない

夕暮れの屋上から

Iさんの帽子のような

白い鳩が飛び去っていった