人間愛の詩を推す/中村 不二夫

 白鳥省吾賞も回を重ねて、既受賞者への対応など若干の課題がみえてきた。今回も石川厚志、里見静江、千田基嗣さんなどの既受賞者の作品が最終選考に残った。いずれも、受賞作に優るとも劣らない作品だったが、原田委員、佐々木委員と協議し、今回の三作品とも、やや受賞作の自己模倣的な感が拭えないため、受賞に至らなかった。今後、既受賞者に望むのは、以前の受賞作品から大胆な修辞的転換を図って欲しいことである。

 本年度の最優秀賞は満場一致で実力派農民詩人、前田新さんの「北への回路」に決まった。前田さんは日本農民文学会会員で、かつての同会会長白鳥省吾へ捧げた絶唱に圧倒された。現代の農民詩人前田さんに、白鳥の詩的精神が継承されていることを喜びたい。優秀賞について、まず堀内敦子さんの「白い帽子」はすんなりと決まった。この詩のテーマIさんは学校職員で、教壇に立っていたわけではない。しかし、日々無償で子どもたちを支え続けたその姿こそ、知識の切り売りではない、真の教育者の姿であったといえないか作者の豊かな感性がIさんの豊かな人間性を掘り起こした。もう一篇、優秀賞は餅田彩葉さんの「森の詩」である。「黄色いことりが鳴いている。」から、さいごの「森はしずかに轟いている。」まで、心地良いリズムで一気に読ませてしまう。今という時代、若者にとってけっして生きやすい社会環境ではない。しかし、この詩のように、人間の精神的土壌には無限の可能性が秘められている。それは祖先からの無償の贈与であって、この作者にはそれを感受し、表現できる天賦の才能がある。

 他に私が推した作品として、根橋麻利さんの「最後の時間」は父の最後を捉えて、人間の尊厳とは何かの意味に迫っている。みうらひろこさんの「翡翆」には震災詩の新たな発見と展開が窺える。いちじくさんの「温度」は都会生活者のリアルさが伝わってくる。

三つの選考基準/原田 勇男

 今回も「自然」 「人間愛」をテーマにした多数の応募作品を読むことができて幸せだった。白鳥省吾賞が注目されるようになった証だろう。最終審査会では、これまで優秀賞を輝いた方々の作品の中から、最優秀賞にふさわしい作品があるかどうかを検討した結果、残念ながらそのような作品はなかった。今までと同じような主題や技術的なレベルではなく、それを突き抜けるものが欲しかった。

 私は三つの選考基準を自らに課した。その一は思想的にも技術の上でも優れた作品であること。その二は観念的ではなくポエジーがあること。その三はフレッシュな感受性を通して世界を見つめていることだった。次の三篇はその条件を確かに満たしていた。

 前田新さんの「北への回路」は、思想的にも技術的にも一級の優れた作品である。長い間、農民詩人として活躍してきた方にふさわしい北方の詩精神と民衆の心が結び付いた絶唱だと思った。縄文の思想に帰着する北の回路は「搾取と収奪がない/そこには益権をめぐる争いも/征服のために人を殺すという論理もない」。この詩句に、前田さんの万感の思いが込められている。そこへ向かって私たちの内なる死者は旅立っていくのだ。

 堀内敦子さんの「白い帽子」は、亡くなった学校の用務員さんを弔う鎮魂歌である。堀内さんも学校職員だから用務員さんは最も身近な存在だったのだろう。「子どもたちの足跡を/満月のような笑顔で拭っていたひと/子どもたちのはしゃぐ声を/白い帽子に包み込んでいたひと/子どもたちの汗で きらめいた砂を/夢の中にしまい込んでいたひと」など、学校や子どもたちになじんでいた用務員さんをポエジー豊かに追悼している。

 高校生で優秀賞に輝いた餅田彩葉さんの「森の詩(もりのうた) 」 は、みずみずしい感性がとらえたフレッシュな作品である。

一見たどたどしい所もあるが、森の恵みの素晴らしさを表現した佳品だと思った。

さらに、「人間愛の詩」を/佐々木 洋一

 今回最終選考に残った三十九篇の詩で残念だったのは、過去の入選者の作品がこれまで以上でなかったこと。新しい書き手の作品では、ハッとするような新鮮な切り口のものが少なかったことでした。

 最優秀賞には、すでに詩、評論などで活躍されている前田新「北への回路」を推しました。

 「人もまた自然のなかの/あらゆる生命体の一環に過ぎない」という原点回帰への思想を、未来の啓示へと込めた強い意志に魅了された。本賞のテーマに合った実力のある作品でした。優秀賞の堀内敦子「白い帽子」は、子どもたちを陰で支えた学校現場で働く業務員(I)さんの誠実な姿が、作品の目を通してヒューウマンに描かれている。とても心温まる作品でした。同じく餅田彩葉「森の詩」は、尚学学園沖縄尚学高等学校生の作品。高校生が優秀賞になったのは、初回に続き二回目である。若々しく勢いがあり、森の新鮮な香りがする。森のいのちの鼓動が聞こえてくるような率直な作品でした。これを契機にどしどし書き込んでほしい。

 小林結「バー日誌・木曜日」は、最も好きな作品でした。バーテンダーの目で思惑ありそうな客を観察した面白さ。もう少し全体の流れが整理されていればと惜しまれる。磯村莉佳「温度」は、電車内でのありふれた情景の一齣。人間のおもいやりの心に打たれる。末尾(部分)がすばらしい。及川良子「静寂が 口を開く」では、少ない言葉と行間から永遠の静寂が立ち昇ってくる。独自の視点が魅力である。その他、東山高等学校生の木村隼「愛を感じる挨拶」は、言葉遊びに近い面白さ。同じく岩井優樹「リズム」は、親と子のあっけらかんとした関係が率直に描かれている。これからも自由奔放に描いてほしい。

 今回も親と子の心温まる「人間愛の詩」が多く描かれていたが、男女の愛の世界の作品が少ないように感じました。次回は、艶のある「人間愛の詩」もどしどし応募してほしい。

「自分の驚きと発見を言葉に」/三浦 明博

 その文章の中にどのような驚きや発見が描かれているのか毎回楽しみにしている。今年も、軽快なものや心の内側を見つめるようなものなど多種多様な詩が届いた。

 最優秀賞・水島知周君「蒲」は、蒲の穂をソーセージや避雷針に見立てた表現が独特で、軽やかな語り口が楽しい詩だ。優秀賞・熊谷友紀子さん「海」は長文を〈、〉だけでつなぐ構成と、所々で使われている効果的な比喩が良かった。優秀賞・遠藤登希君「君」は、作者が語りかけている〈君〉の正体が最後に明かされるという意外性に驚かされた。

 特別賞・千葉玲夕さん「たのしいたいこ」は、〈ドンドン〉などの擬音を多用していて、本当に太鼓の音を聞いている気分になった。特別賞・齋藤悠一郎君「さいしょのきおく」は、東日本大震災時にわずか2才だった自分の記憶を、家族をキーワードに思い返した詩。特別賞・冨田眞吏君「ノラネコ」には、かわいい猫の野生を見せられて〈もやもやした気持ち〉がよく伝わってくる。

 審査員奨励賞・石野美宙さん「菊のごとく、生きてゆけ」は、同じ言葉をくり返すことで生まれる力強さと、〈摘心〉〈剪定〉等の具体的な単語が巧く絡み合っていた。審査員奨励賞・横堀就海君「紙の中」は、紙の中に図形を描いていきながら宇宙のスケールにまで飛躍していくというユニークな世界が書かれた詩だった。

 今回最優秀賞の水島君は、第十六回本賞で審査員奨励賞を受賞していたと教えてもらい、こうやって書き続けていると知り嬉しく思った。また、アメリカのワシントン日本語学校からも多くの応募作が届き、異国で日本語の詩を書いている子どもたちがいると知ったのも喜ばしいことだった。来年も何気ない毎日の小さな驚きや発見に期待したい。

見なれた自然、ありふれた愛のなかにこそ発見や感動がある/渡辺 通子

 予備選考に残った32篇のうち、最終選考では順当に受賞作8篇が選ばれた。受賞作は、自然や友情、家族をテ―マにするが、作者ならではの発想や発見があり、また表現の面でも際立っていた。

 最優秀賞の水島知周さん「蒲(がま)」は、登下校の途中でみる水田の風景であろうか、田んぼの中に生えた蒲をソーセージ、「避雷針(ひらいしん)」、茶色いスティック、アメリカンドッグと巧みな比喩でとらえる。蒲をめぐる「蛙(かえる)」や「鴉(からす)」、とんぼ、「蝉(せみ)」の存在をとらえた自然「観賞(かんしょう)」もまたいい。

 優秀賞の熊谷友紀子さん「海」は、夏の放課後の教室でたった一人で思索する少女が主人公。少女は、作者自身なのか、母か、それともまだ見ぬ娘なのか。思春期の少女の繊細な感情を研ぎ澄まされた表現で「吐露(とろ)」した。遠藤登希さん「君」は、身体の大きな君と小さな僕との友情がテーマ。私たちの日常には怒りや哀しみを伴う場面がたくさんある。そんな喜怒哀楽の感情を整える「術(すべ)」を知ることを成長と呼ぶ。君の正体が最後にわかる終末の転換が絶妙。

 特別賞の、千葉玲夕さん「たのしいたいこ」は、郷土に伝わる太鼓の練習の様子を擬音語を巧みに用い、リズム感のある力強い表現である。齋藤悠一郎さん「さいしょのきおく」は、東日本大震災のその後を詠んだ詩。当時、作者は二歳。塀が崩れ瓦が落ち、井戸水を汲み、ろうそくの灯で過ごした・・という記憶はない。覚えているのは、抱きしめてくれた母の鼓動。冨田眞吏さん「ノラネコ」は、一匹の野良猫が小鳥を襲った場面を詩にした。野良猫が人間に見せる愛らしさとは裏腹に、生命体としての残虐性とをあわせもつことを知ってしまった心模様を描く。奨励賞の石野美宙さん「菊のごとく、生きてゆけ」は、菊の栽培に自らの生き方をなぞらえて作者の心を表明する。高潔、誠実、健気であれと。横堀就海さん「紙の中」は、幾何への興味を背景に、算数的な思考で仕立てた作品。一枚の紙に描く平面世界から宇宙を覗くような不思議な感覚が残る。その他、荘厳な世界への畏

 敬の思いを表出した櫻井みつるさんの「淡く眩んで手も出せぬ」、フウセンカズラのひと夏の変化を描写した菅原陽佑さん「小さな約束」も秀作である。

 なお、詩のタイトルは作品の顔、作品の大事な要素である。練りに練ってタイトル名を決めることを心がけてほしい。