受賞作品を、原文のまま掲載します。
 本文に読みがなを〔 〕書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
 ※ 敬称略

原文はこちら

その瞬間
世界の時間が止まる
数えきれないほどの花と
数えきれないほどの
名前が刻まれた石
その前で
目を閉じた
大粒の涙が流れた瞬間だった
私もまた
目を閉じた
海を前に浜辺に立って
悲しみも
怒りも
悔しさも
あの水平線の向こうに
全部置いてきてくれるから
やさしい風と力強い波が
耳の奥を通り抜ける
七十年前の今日
この海は赤かった
赤い波は次々と
命の火を消していく
今でも目に映る景色
それでも人は立ち上がる
どんなに絶望に立たされても
どんなに時間がかかっても
まっすぐに生きている
波は前に進んでは
すぐに後ろへ下がっていく
でも
確かに前に進んでいる
ひたすらに前に進んでいる
私は歩き出した
歩いていこう 前を向いて
この海のように
何度でも