受賞作品を、原文のまま掲載します。
 本文に読みがなを〔 〕書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
 ※ 敬称略

原文はこちら

チューブを引き出す
水を張った容器に沈め
漏れる場所を確かめる
やすりをかけ 薬剤を塗り
パッチを貼ってタイヤに戻す
油を注し ブレーキを確かめる
澱みなく流れるように
余計な言葉は発しない
慣れた作業でも手を抜くことはない
何十年も変わることなく
同じように直してきた
車輪は人を乗せるのだから
彼は自転車屋だ 一日の仕事を終え
黒くなった爪の機械油を洗い
寝床に入る時 彼は想う
これまで直してきた車輪のことを
何と滑らかに 嬉しそうに
あれらは走り去ったかと
仕事へか 学校へか 家路へか
目を閉じれば浮かぶ その回転が
回るものは かほどに美しいのだ
金色の小麦を挽く風車のように
町と町をつなぐ列車のように
時計を動かす歯車のように
それは 人を助けるものだ
幸せにするのだ
世界にはどれほどの輪が
そうして回っているだろう
自転車屋は知っている
その中に自分の直した輪も
入っていることを
世界は誰が回すのでもない
自分のように名も無い人間の
仕事が回すのだということを
自転車屋の夢のかなたには
空に浮かぶ星のように
無数の輪が 今日も
回り続けている