人間愛の詩の収穫/中村 不二夫

 白鳥省吾賞は、民衆詩派の理論的支柱、白鳥省吾が提唱した人間愛の詩、自然の詩を応募要項に掲げている。現在、われわれ日本人はハイテク化した社会環境の中で、他者や自然への慎みを失ってしまっている。応募作品の多くには、詩を書くことで、それらかつての尊い人間らしい感情の営みを回復させようとする試みがみられる。
 最優秀賞は、委員全員が上位で推した小野光子さんの「自転車屋は世界を回す」。日本を本当に支えているのは、この詩にあるような黙々と市井で働く無名の人たちである。だれもが自らの労働の手を通し、他者のために生きることができる崇高さを示した秀作。優秀賞は石川厚志さんの「空中散歩」で、仮想と現実の織りなすファンタジックな言語空間が、ともすれば忘れがちな親子愛を深く掘り下げている。子どもたちにとって、つねに他者との競争を強いられる現在の社会環境は厳しい。この詩のように、その対象がだれであれ、死んでも守るものが内にあることは何より尊い。もう一篇は魚本藤子さんの「十万年」。人が生きることの意味を樹齢千年の川棚温泉のクスノキ、七千年の屋久島の縄文杉に重ねての力作。人間はそれらに比べれば短命で、他者と命のリレーをすることでしか生き延びていけない。人間の二足歩行と同じように、高レベルの核廃棄物は安全になるまで十万年かかるという。それに対し、作者の「ノートに何回が書いているうち/小さな羽虫になっていく私の時間」という心の置き方がよい。
 すでに優秀賞受賞者の里見静江さんの「はじまりの時について」は介護を通しての人間愛、中村花木さんの「文通」は受刑者となったかつての友人との精神的交流を描いて印象深い。奨励賞は、初々しい詩風の小野知世さん「秋の記憶」。幼年期から少女期、そして結婚へと、それぞれにあった秋の記憶を、文体を変えて情感豊かに書いている。他に優秀賞に近かった作品として、和井田勢津さんの「佃煮」。戦時下、父が娘のため、隠れて牛肉の佃煮を渡すというエピソードがユニーク。

さわやかな作品群に共感/原田 勇男

 今回は人類愛を標榜する白鳥省吾賞にふさわしい作品が集まり充実した審査ができた。
 小野光子さんの「自転車屋は世界を回す」は自転車の修理をする作業から始まり、夢のなかでこれまでに直してきた車輪が回っているのを幻想する。「世界は誰が回すものでもない/自分のように名も無い人間の/仕事が回すのだ」と自分の仕事に誇りを持つ。さわやかな詩で審査員三人とも評価が高く、満票で最優秀賞に決定した。
 石川厚志さんの「空中散歩」は、すでにこの世にいない子どもと遊園地で遊ぶ情景を描いた散文詩。この子は誰なのか、男の子か女の子なのか分からない。だが、楽しく遊ぶ幻影の子どもの存在は、震災後の時節でもありさまざまな想像力をかきたてる。完成度の高い作品で優秀賞に選ばれた。
 魚本藤子さんの「十万年」は六歳の孫娘、樹齢千年のクスノキ、樹齢七千年の縄文杉、人間の祖先が立って歩いてから十万年の歳月と、高レベルの核兵器が安全になるまで十万年かかる途方もない時間に思いをはせる。原発への素朴な疑問が感じられる作品で、共感を持って優秀賞に推薦した。
 小野知世さんの「秋の記憶」は幼いころの思い出に始まり、高校生まで父が植えた金木犀の木を眺めて大きくなった季節の記憶や、紅葉の秋にプロポーズを受けて結婚を決めた「まだ今日のこと」を素直に表現していて心打たれた。若い娘さんの幸せな旅立ちを祝して審査員奨励賞に決まった。
 ほかに和井田勢津さんの「佃煮」、里見静江さんの「はじまりの時について」、渡ひろこさんの「紙魚」、感王寺美智子さんの「この海に」、中村花木さんの「文通」、後藤昇さんの「激憤する埃」、うえじょう晶さんの「希望の海」が印象に残った。

皆の手の内にある詩/佐々木 洋一

 今年も全国から優れた作品がたくさん集まりました。詩は一部のものの手の内にあるのではなく、皆の手の内にあるようです。悩んだ末、十篇を賞の対象とし最終選考に臨みました。年に一度このような優れた作品に接することが出来るのは、詩を書くものの一人としてとても嬉しいことです。
 最優秀賞の小野光子「自転車屋は世界を回す」は、自転車屋の奥さんなのだろうか。自転車屋が直した車輪が世界をしあわせにする輪なのだという発想豊かな作品。仕事への自信と誇りがとてもさわやか。三人の審査員一致で最優秀賞と決まりました。優秀賞の石川厚志「空中散歩」は、実力のある書き手の作品。亡くなった子どもと非現実空間でもある遊園地で遊ぶ親の思い。懐かしさや痛みがやるせない。同じく優秀賞の魚本藤子「十万年」は、ホモサピエンスがこれまで引き継いできたいのちの時間が十万年。これから核廃棄物が安全となる時間も十万年。いのちの重さと人間存在の危うさが作品の背後に潜む。審査員奨励賞の小野知世「秋の記憶」は、素直で若々しい愛の作品。このままもっともっと愛の世界を描いて欲しい。
 賞外になりましたが、里見静江「はじまりの時について」は、身近な老人の日常を通し、人間差別に対する根源的な問いが重い。実力的には賞と遜色ない作品。渡ひろこ「紙魚」は、アルバムについた虫「紙魚」からの発想がユニーク。「この紙魚のごとく、大海に消えた叔父」は、戦争で失った叔父への鎮魂。しみじみとした思いが伝わる。橋本シオン「美しい朝に」は、叔母の死を切々と語る作者の心情が美しい。鋭い切り口の言葉は才能豊かな証し。もう少し内容をふくらませるといい。鎌田和子「お誕生日」は、誕生日プレゼントをするにあたり、子どもと大人の思惑の違いをユーモアたっぷりに表現している。なにげなさが微笑ましい。和井田勢津「佃煮」は、戦中、送られてきた牛肉を少女が皆に隠しながら食べていた話。時代の貧しさやそこに生きた人々の哀しみが伝わる。その他、今も続く震災の鎮魂の詩照井良平「リアスの岬文化」、失われた炭鉱への思いの詩磐城葦彦「消えない坑口」が力作であった。

女子優勢の時代か。かんばれ男子/三浦 明博

 驚いたことに、今回は受賞者8人中7人までが女の子という結果になった。何げない日常の暮らしの中で起きた小さなできごとや、自分の気持ちの動きをていねいに見つめて表現した、繊細な詩が多かったと感じた。
 最優秀賞・佐藤麗菜さん「ふわふわのボール」は、「あなたの母で良かった」という母親のやさしい言葉を受け止め損ねた姉の、ゆれる心情を上手に表現していた。優秀賞・加藤彩花さん「空への郵便」は、生まれてくることのなかった「君」にあてた手紙という形式で切なくもやさしい印象。優秀賞・菅原結さん「にわの音楽」は、霜柱を踏む音や、溶けた雪のしずくの音を音楽会に見たてた愛らしい詩だった。
 特別賞・千田仁南さん「きゃほず」は、久しぶりに聞く方言で子どもの頃の川遊びを思い出させられた。特別賞・千田菜瑠さん「かにとり名人」は、祖父母と海でかにとりしたエピソードを元気に楽しく書いている。特別賞・木戸真梨子さん「海」は、先の戦争の慰霊碑を訪ねた時の事だろうか、若い人の力強い決意を感じる。
 審査員奨励賞・氏家萌々菜さん「呪文の言葉」は、自分がよく使う「しょうがない」という負の呪文をやめ、正の呪文を創り出すことで自分を変える決意を表した一編。審査員奨励賞・香川泰輝くん「未来のぼくの子どもへ伝えたいこと」は、現在自分が過ごしている毎日を、未来の自分の子どもへ語りかけるという視点がユニークだった。
 他に面白いと思ったものを以下に。吉田萌恵さん「なっとう」、櫻井渓くん「陸上練習」、千田亜由美さん「自然のおかげで生きたとんぼ」、菅原礼慈くん「ぼくのおじいちゃん」、渋谷優芽さん「めぐる自然」、朴美羽さん「空間」、尾形柚乃さん「蝉の音がした」。

心をことばに乗せるということ/渡辺 通子

 1000編近い作品には、民衆派詩人白鳥省吾の賞ということを意識しているせいか、全体的には家族や自然を歌った作品が多かった。家族のありようも、兄弟のありようも、時代と共に変化する。応募作品からは、21世紀という時代をたくましく生きる子どもたちの姿がうかがえた。
 最優秀賞の佐藤麗菜さん「ふわふわのボール」は、母子関係をモチーフにした5連詩。母と子の愛情のやりとりをキャッチボールに託しながら、姉妹間にある微妙な心の襞を吐露している。愛され上手な妹に比べ、不器用な私の拗ねたような思いを包み込む母の存在。
 優秀賞の加藤彩花さん「空への郵便」は、一緒に生活することなく、この世を去って行った弟への思いを手紙の形式で綴った詩。長姉として、両親や妹の様子を伝える内容には、いつの時代にも変わらぬ家族愛がある。菅原結さん「にわの音楽会」もまた自然観賞を通して、家族の交流を読んだ詩。冬の庭の木々の芽にある柔らかな触感や霜柱を踏んだ時の感触を擬音語を巧みに使って表現した。傍らにいる小さな弟、たけちゃんの存在が際立つ。
 特別賞は3編。千田仁青さんの「きゃほず」は方言詩。きゃほずは宮城県北の方言で、小川や堀をせき止めて水をくみ出し、魚を捕ること。川遊びと魚採りを合わせたような楽しさを臨場感ある詩に仕上げた。千田菜瑠さんの「かにとり名人」は、名人の祖父から蟹採りの極意を教わる話。今度はご両親も一緒に海に行けますように。木戸真梨子さんの「海」は、5年前にあった東日本大震災の津波で被災した方々への鎮魂歌。多くの命を奪った海は、70年前に戦火に燃えた海でもあり、作者にとっては、悲しみや怒り、悔しさを沖に引き去る海でもある。ひたすらに進み続けることへの強い決意が表れた作品。
 審査委員奨励賞は2編。氏家萌々菜さんの「呪文の言葉」は<しょうがない>。これから新しい呪文の言葉が生まれるに違いない。香川泰輝さんの「未来の僕の子どもへ伝えたいこと」は、統廃合で廃校となる母校の様子を語り継ぐ詩。
 そのほか、白鳥徠琉さんの「風・マラソン」、澤口颯さんの「最高のバッテリー」、朴美羽さんの「空間」、尾方柚乃さんの「蝉の音がした」、二階堂佑真さんの「蛍の輝き」、斉藤雄一郎さんの「百人一しゅ」も印象に残る作品であった。