人間愛の詩と自然/中村 不二夫

 白鳥省吾は、真心をもって自然と人間生活に向き合った愛の詩人である。候補作は、すでに第一選考を経た優秀な作品で、白鳥省吾の精神に適う遜色のないものばかりであった。原田勇男、佐々木洋一両委員の意見を軸に、話し合いによって優秀作をしぼっていった。

 最優秀賞を獲得したのは、一昨年度優秀賞の花潜幸さんの「河、あなたに出会い離れるまで」である。前のオリンピックで、東京都心の堀割が高速道路のため埋め立てられ、この詩のように河は暗渠と化した。花潜さんは人間の欲望の趣くままに翻弄されるそうした河に、自らの幼年から現在までの心象風景を投影し、内部(作者の心)と外部(河の風景)の関係をイメージ豊かに描いてみせる。この作品は技術的にも完成度が高く、私は愛と自然の詩人、白鳥省吾の詩的精神を具現化したものとして最優秀作品に推した。

 優秀賞とした石橋真美さんの「母になった日」は、我が子誕生の瞬間を素直に歌い上げた秀作である。この詩は誕生の神秘を描くとともに、「人は、失うものがなければ強い」が、「土壇場で一番強いのは、失いたくないものがある時だ」の展開に胸を打たれた。ふだん当たり前であると思っていること、たとえば国であれば平和、人であれば健康など、それはけっして当たり前ではないという実感が伝わってくる。

 同じく、里見静江さんの「畑の秋」は、畑生活への違和から葛藤を経て融和に至る思いを描いて印象深い。ここでの違和感は、われわれが生きていく上で遭遇する日常生活に置き換えてもよい。ここで里見さんは、自分が壊した南瓜がだれかに拾われて、その家の台所に置かれている描写を通し、人の行動もまた、それが善であれ悪であれ、どこかでだれかが感得しているという天の摂理を暗示する。作者の深い人生観によって支えられた秀作。

 審査員奨励賞として感王寺美智子さんの新潟の実家から、気仙沼の仮設住宅に帰るシーンを描いた「きらめく海」を選んだ。大震災をモチーフにした作品は減少しつつあるが、被災地の復興と再生のため、これからも全国的に書き続けていってほしい。この詩は、実家の新潟(日本海)と被災地の気仙沼(太平洋)をひとつの海で前向きに結んだ視点がよい。

 他に、これは私の推薦だが、大震災の追悼を独自の視点で描いた長根世津子さんの「カラス」、入院先での食生活をユーモアを交えて描いた、能祖將夫さんの「薫風」、同じくホスピスの中の食生活を描いた、立原みどりさんの「月と大豆」なども印象に残った。

読み終わって心に残る作品を/原田 勇男

 優れた作品は読み終わっていつまでも心に残るものである。白鳥省吾賞にふさわしく、ヒューマンで感動的な作品に出会いたいと思いながら、予備審査と本審査に臨んだ。選考を終えてみて、最優秀作と優秀作二篇、審査員奨励賞は、その条件を満たしていたと言えるだろう。また、惜しくも受賞を逸した作品の中にも、心を打つ作品が幾篇かあった。

 花潜幸さんの「河、あなたに出会い離れるまで」は河との出会いと別れを壮大なスケールで表現した散文詩。河が周辺の町とともに成長する様や洪水で氾濫を起こす様、復旧工事で生まれ変わり、穏やかな流れとなって、はるかな海へ注ぐ大河の姿を浮き彫りにし、それを眺める人の人生を重ねている。最優秀賞にふさわしい成熟した作品である。

 石橋真美さんの「母になった日」は小さな命を宿し、無事出産した女性の幸せな体験を、素直な言葉で表現した作品である。女性でなければ書けない世界をストレートに描いていて感動的だった。

 里見静江さんの「畑の秋」はケアマネージャーという職業から生まれた作品だろう。「なじまない顔のひとのことばに/ふいと眼をそらせて/地べたに南瓜を投げつけ」たり、「畑の向こうまで歩いていくと/家に戻れなくなる」孤独なY子さんの存在を、心静かに見守る姿勢が感じられる。

 審査員奨励賞の感応寺美智子さんの「きらめく海」は新潟で育ち、嫁いだ気仙沼の仮設住宅に住んでいる筆者が、里帰りした父母との温かい心の交流を通して、生きている実感を味わうさわやかな詩である。

 千田基嗣さんの「水と月」は、震災後の暗い水に覆われた被災地の光景をシャープで重厚なカメラアイを通してとらえ、復旧の遅れと復興への思いを内にこめている。昨年、優秀賞を受賞したこともあって今回は次点にまわったが、この作品は前回より優れているとの評があったことを付記しておきたい。

三篇という賞の難しさ/佐々木 洋一

 第16回白鳥省吾賞は、一般の部で1066篇の作品の応募がありました。応募数が多く、この賞が少しずつ皆さんに周知されてきているように思います。また、全体の作品のレベルが高くなっていると感じました。

 今回は、予備審査で50篇に絞り、そこから取捨選択を繰り返し、最終的に8篇を選び最終審査に臨みました。いつものことですが、予備審査を通った作品はどれもすぐれており、そこから最終審査の対象の作品に絞ることはとても大変でした。

 最優秀賞の花潜幸「河、あなたに出会い離れるまで」は、時とともに変化していく河の姿を通して、河と人のありようが問われています。技術的にも優れた美しい作品でした。

 優秀賞の石橋真美「母になった日」は、生まれた子どをを通して、いのちの尊さを実感としてとらえています。率直な気持ちが力強く表現されていました。同じく、優秀賞の里見静江「畑の秋」は旧い家へ嫁いだ女のこころの葛藤を、簡素な表現で浮かび上がらせています。しっとりとした趣のある作品となっていました。

 奨励賞の感王寺美智子「きらめく海」は、震災後の作品で、遠くはなれている家族のそれぞれの思いがしっかりと伝わってきます。終連の3行が生きていました。

 その他、震災の象徴的な風景を確かな筆致で切り取った千田基嗣「水と月」はとても優れた作品ですが、昨年の優秀賞受賞者でもあることから、今回は賞から外しました。橋本しおん「死んだあなたへ」はスピート感のある素直な表現が才能を感じます。是非書き続けてください。森由紀「手」は痴呆症の祖母と子の関係がとてもあたたかく伝わってくる作品です。やさしさに感動いたしました。佐藤誠二「土っこ」は農家(百姓)の土に籠める思いがストレートに出ています。土の臭いが魅力的な作品でした。

 以上ですが、今回選外になった作品であっても、すばらしい作品が多くありました。三篇という賞の枠の難しさを実感しました。

詩の個性は、人の個性/三浦 明博

 今年も、個性が伝わってくるさまざまな詩が集まった。以前のような農作業や自然など、土の匂いのする詩が少なくなった印象もあるが、これも時代の流れだろうか。残念ながら今回、最優秀賞は該当作なしとなった。来年に期待したいと思う。

 優秀賞・金森悠夏さん「凶器」は、言葉と人間の感情というものをじっくり見つめていて、「欠けた痛み」など随所に新鮮な視点が感じられた。優秀賞・伊藤圭佑君「夏の絵」も、内側に鋭いトゲを隠し持ったような、いくつかの表現が読み手に突きつけられるような思春期らしい詩だった。

 特別賞・竹内結哉君「おい、ゲンキ」は、年をとって変わってしまった犬との関係をつづる文章が切ない。特別賞・高橋未夢さん「母、父、姉」の美点は、ユーモアを底に含んだ人間観察の鋭さにあり、冷静さと温もりが共存する見方にはくすりと笑わされた。特別賞・菅原結さん「ねんどのへんしん」は、混ぜて練るたびにどんどん変わっていく色の様子が目に浮かぶよう。

 審査員奨励賞・水島知周君「くっついたね」は、服にくっつく種という見落としがちな素材を子どもらしい冒険心とともに描いている。審査員奨励賞・成瀬瑠依さん「自転車」の人をくったような独白調の文章は、個人的にツボだった。

 選にはもれたが、個人的に好きだったものを以下に。大西揺也君「箱根登山鉄道」、大葉沙知さん「おかあの魔法の手」、奥田優介君「現実の詩(いまのうた)」、菅原悠衣さん「平和と戦争~幸せになるために」、佐々木和希君「ぼくの家は豆腐屋」、櫻井みつる君「夜の雨の祭り」、宮崎大心君「ホットケーキとバター」、林真理佳さん「だっこ」、早田昴人君「押し花」、小林晴日さん「天寿全う」。

詩の種蒔きしよう/渡辺通子

 予備審査にあたっては、オリジナリティのある豊かな発想があること、その想を詩にしあげていく際には、一語一語のことばの扱いを大切にしながら表現していることの二つを基準にして選定した。予備審査に残った37編の作品は、それぞれに光るものがあって甲乙つけがたかったが最終的には7編に絞った。

 伊藤圭佑さんの「夏の絵」は、夏の日の少年の倦怠と切なさを表現した作品である。生い茂る夏草にむせかえるような暑さの中、ひたすら草を抜き続ける一人の少年の姿に焦点を当てた。見えないものを見、見えないものを感じとってしまう思春期の心の襞を描く。

 金森悠夏さんの「凶器」もまた思春期の少女の研ぎ澄まされた心情を吐露した作品。言葉は人と人とを結びつける機能をもつが、時に凶器ともなる。巧みな比喩によって深い思索が表現された。

 竹内結哉さんの「おい、ゲンキ」は、老犬ゲンキとのふれあいを畳みかけるように話しかける表現で書いた作品。愛犬を観察する確かな眼差しが命の尊さを叫ぶ。

 高橋未夢さんの「母、父、姉」は、家族の交流をユーモアある表現でまとめた作品。何気ない日々の生活にこそ詩の素材はある。

 菅原結さんの「ねんどのへんしん」は粘土遊びに想を得た作品。水色・白・ピンクの粘土を混ぜ込みながら夏の雲、ソーダ水、ケーキ・・・を次々と創造していく楽しさに色彩の美しさが加わる。水島知周さんの「くっついたね」は、凧揚げに興じる少年が衣服に付着した花の種を見つけたことから、広がる夢想を詩にしたもの。マリーゴールドの種であったという種明かしのような構成に工夫がある。

 成瀬瑠衣さんの「自転車」は、帰宅のために自転車を走らせながら登り坂と格闘する姿を書いた作品。手ごわい登り坂を次々に征服していくさまがユーモラスに描かれている。

 他に、奥田優介さんの「現実の詩」の社会性のある作品、櫻井みつるさんの「雨の夜の祭り」の車窓から見る風景をとらえた作品などが印象に残った。