受賞作品を、原文のまま掲載します。
 本文に読みがなを〔 〕書きで添え、編集の都合上、すべて横書きにしています。
※ 敬称略

原文はこちら

はるか以前のことだ
 まだ私は若かったし何も知らなかった
新任の教師として赴任した先は
 病院を併設した養護学校だった
 君のクラスの子だよと病院に通された
 奥まったベッドの部屋には
 体を動かすことのできない
 三人の高校生がいた
 枝のように細く小さな手足と
 ぎこちなく動く口と黒い大きな瞳があった

 筋ジストロフィー症の君たちと
 美術の授業をした
 ひとつの作品にほぼ一年をかけた
  筆を持たせてください…この色をつけてく
  ださい…ここを消してください…ありがと
  うございます… せんせい せんせい…
この世はなんて不条理かと知った
そしてしばらくして私の生徒はすべて死んだ

 いいんだ… と言っていた
 明日死ぬとしても
 僕はこの宿題をしてから死ぬ と…
どんなに多くの苦しみや憎しみ嫉妬の果てに
たどり着いた珠翠の言葉だろう
彼らの瞳は澄みきっていた

 人間の価値を考えさせられた
 もし功績やお金を稼ぐことだったとしたら
 彼らは何も残していない
 こうやって一瞬一瞬を生き抜くことだろうか
 だがそれも違うかも知れない
  価値なんて 人間が人間に
  下せるものではないよ 先生… と
 黒い瞳の君がかつてつぶやいていた
 はるか以前放たれた言葉を見つめながら
 私は 今も 生きている