大震災と人間愛の詩/中村 不二夫

 前選考委員長の石原武氏は、ノーベル賞候補西脇順三郎に学んだ詩界きっての知性派詩人で、その後を務めるのは大変荷が重い。
 今回、経験豊富な原田勇男、佐々木洋一両委員に支えられ選考を終えられたことを感謝申し上げたい。
 第14回の選考は、候補作品中、主に震災関連の詩と白鳥省吾の詩的精神である人間愛を描いた作品を軸に論議が展開された。最優秀賞の五藤悦子さん「青いカナリア」は、三人の選考委員が全員一致でトップに押した作品である。佐々木委員から、かつて鉱山労働者たちが炭坑に入っていくとき、カナリアを連れていく習わしがあることを知らされた。無垢なカナリアは、人間の先頭に立って毒ガス検知に使われていたのである。五藤さんのカナリアは、原発事故後の放射能探知のために放たれた使者であろうか。現代の「黒い雨」の恐怖をイメージ豊かに訴えたものとして印象深い。優秀賞の草野理恵子さん「よしよし・・・・」は、重度障害者を子にもつ母の立場からの作品で、長い苦悶の日々を必死に乗り越え、その現実を宇宙からの祝福として、やがて自然に受容するまでを描いた感動作。花潜幸さんの「手首の白い花」は生命の神秘さを描いた抒情詩だが、その言葉はたとえば厳しい現実を前に、復興を待つ被災地の人々、現在失業している人々を励ますなど、その豊かなメツセージ性に注目した。奨励賞は、被災地に住む沼倉順子さんの作品「静思」を選んだ。まだ全体に作品は粗削りだが、震災で破壊されたお墓の復旧、いわば死者の再生に向かう真摯な探究心に胸を打たれた。震災詩のひとつとして記録しておくことの意味は大きい。
 他に入選作品として遜色がないものとして、魚本藤子さんの「坂」は大地に生きる人の姿を明瞭に映し出して秀逸。また菊地康久さんの「『天使力発電所』」は三歳の子供が原子力を天使力と言い間違えたことから、危険を顧みず黙々と働く原発作業員たちの姿を独自の視点で映像化している。後半の修辞部分の整理ができていればと惜しまれる。

ヒューマンな応募作品に収穫/原田 勇男

 本賞にふさわしいヒューマンな作品が多く寄せられたことを喜びたいと思いました。最優秀賞に選ばれた五藤悦子さんの「青いカナリア」は原発の安全神話を青い傘に譬え、守ってくれると信じていたが、放射能が降っても傘は助けにこない。傘はいつか異変に敏感な青いカナリアに変わり、そのカナリアが偽りの空から落ちて来たという内容。原発事故による放射能の恐怖と向き合った作品で出色の出来でした。
 優秀賞の草野理恵子さん「よしよし・・・・」は、身障者の子どもを持つ母親の苦しみや悲しみがよく表現されていました。後半で知的障害者の耕也君がテレビの画面で泣きじゃくる子どもの姿を「よしよし・・・・」と撫でている様子は感動的です。そんな耕也君のすべてを受け入れて生きてきた母親の思いが読む者の心を打ちます。
 同じく優秀賞の花潜幸さん「手首の白い花」は、生の意味やいのちの大切さと向き合う習熟した散文詩です。偶然拾った白い小さな花飾りや「はなむぐり」にまつわるささやかなエピソードを題材に、詩の世界を創造しています。
 沼倉順子さんの「静思」は地元栗原市で東日本大震災に遭い、亡き父を祠る地蔵が傷ついた顛末を表現しています。素朴な詩風ですが、これからの精進を期待して審査員奨励賞を差し上げることにしました。
 菊地康久さんの「天使力発電所」は、子どもが原子力と言えずに間違えたのを巧みに取り入れ、暗喩を通して原発への批判を展開しています。そのユニークな発想に注目しましたが、後半の部分は舌足らずな表現や意味がよく伝わらない箇所もあったのが残念でした。
 震災を主題にした照井良平さんの「ある とんでもない贅沢品が」、根本洋子さんの「ケータイ電話」、石川厚志さんの「潮風」、新野彬子さんの「旅立ちの日」、小山健さんの「老人」などの作品や、魚本藤子さんの「坂」、田中ふくみさんの「夢の森の住人たち」、金森孝枝さんの「誕生日ケーキ」、工藤恵美子さんの「銀合歓の白い花」にも注目しました。 

震災、原発事故からの詩と一般的な詩と/佐々木 洋一

  今回の全体的な印象としては、これぞと思うインパクトのある作品、柔軟な発想やユーモアのある作品が少なかった。本審査に残った44編のうち11編が震災、原発事故をモチーフにしているが、これらの作品は一般的な作品と比べると切実感は強かったように思う。選ぶにあたっては、震災、原発事故の作品に偏らないことを念頭に最終審査に臨んだ。
 震災、原発事故などの作品として、最優秀賞の五藤悦子「青いカナリア」からは、鉱山ではカナリアを坑内に連れて入り、その生死によって坑内のガスの発生を察知したという実話があり、そのことが頭に浮かんだ。この作品においても、青いカナリアは放射能を予兆するものとしての役割を果たしているように思う。信じていたものが信じられなくなることの恐怖が襲ってくる。文句なく最優秀賞に決まった。菊地康久「天使力発電所」は、子どもが原子力を天使力と言いちがえた発想豊かな作品である。後半部がどうかという議論になり、残念ながら賞外となった。石川厚志「潮風」は、震災で亡くなったものへの思いが、海辺の描写とともに伝わる。照井良平「ある とんでもない贅沢品が」は、当たり前の日常の中にこそある幸せを実感する。小山健「老人」は、見つからない孫への悲しみが率直に表現されている。根本洋子「ケータイ電話」は、原発事故で避難している作者(祖母)が、現地の状況を揶揄的にとらえる中で、亡き母のケータイを通して、孫に母の声を聞かせてほしいと願う作者のこころが切ない。また、金森孝枝「誕生日のケーキ」は、拉致家族の思いを描いて印象深い。
 一般的な作品では、優秀賞の草野理恵子「よしよし・・・・」は、障害を持つ子がテレビの画面をよしよしと撫でる行為を見て、生きることの意味を知る。人間の根源が抉られる作品である。同じく優秀賞奥野正幸「手首の白い花」は、白い小さな花飾りを拾ったことからイメージを脹らませている。ドキリ感はないが、散文の美しさがある。荒木彰子「真夏の朝の会話」は、言葉が通じない国の者同士がサクランボを通して、「ニーデルホーン」の合図に辿り着く過程がとても印象的である。関谷朋子「台風銀座の片隅で」は、台風時の沖縄における老人と作者のやりとりが活きている。橋本詩音「以降、夜は喰われた」は、シュール的でおもしろい断片をとらえている。
 審査員奨励賞の沼倉順子「静思」は、震災で父の生きた証の道標が崩壊し、それを再構する過程での家族から亡き父への様々な思いがこころを打つ。栗原市に在住しており、今後さらに書き続けてほしい。

具体的にていねいに見ること/佐佐木 邦子

 今年は中学生の詩に優れたものが多かった。これまでも中学生の良い詩が目に付く傾向はあったが、全体から見ればやはり小学生の方が個性的で斬新な発見に満ちていた。それが今年は違った。とくに志波姫中、金成中の作品がいい。受賞するかどうかよりも、中学生という微妙な年代の子どもたちが、自分の言葉で自分の世界を築きつつあることの方が、はるかに大事だろう。
 最優秀賞は村上恵璃華さん「何だか、すまない」。テーマは生物世界の食物連鎖で、その頂点に自分がいるという発見の仕方がユニークだ。優秀賞・後藤ゆうひさんの「静かに暮らしていたのに」は東日本大震災に伴う福島の原発事故を扱った。事故そのものは辛いし、周囲の陰口や陰湿な無視も辛い。メールで思いをつづるいとこの背後に、現代日本の風潮のようなものがぼうっと見える気がする。佐藤大空くん「後をついて行くと」は、おじいさんとコンバイン。コンバインのとてつもない大きさと、使い方を示すウサギとカメのギャップには笑わせられた。
 特別賞・佐藤佑香さん「蝉」は、思い付いた言葉を思い付いたままに並べた印象だが、「嫌い」で押していったところに開き直りとも言えそうな独創性と新鮮さがある。高橋怜央くん「祖父」は、大人の世界の複雑な事情に巻き込まれた中学生の思い。何も言えないけれど、感じることはたくさんある。佐藤健太くん「雑草魂」は、雑草の寂しさを最初に出したことで、作者の今の立ち位置が見える。
 そのほか真鍋安夕さん「晩夏」、鈴木睦くん「夏の夜空」、小野寺日向くん「ハッピーバースデー」、菅原夏希さん「命」、二階堂里菜さん「小さな宇宙の歌」、狩野虹星さん「はじめての田うえ」、鈴木夢叶さん「ふしぎなお知らせ」、千田雄大くん「分かる気がする」、千田聖くん「忘れられない夜」、大場琴音さん「大きくなぁれ、おたまじゃくし」、白鳥裕大くん「お母さんのすきなこと」、中村瑠南さん「風船ガム」なども捨てがたい味わいがあった。
 高いところから大雑把に見るのではなく、視点を下げて具体的に丁寧に見る、それを自分の言葉で書く。詩は見ることから始まるけれど、見るものの大小ではなく、見る姿勢にあるのだと今回も強く感じさせられた。

目のつけどころ/三浦 明博

 今年は、中学生の応募作で予備審査を通過する本数が多かった。ここ数年の傾向だが、喜ばしいことだと思うし、小学生と中学生の着眼点の違いも見えてきて興味深い。
 最優秀賞・村上恵璃華さん「何だか、すまない」は、お姉ちゃんがさばいていた魚の腹から、イカと小魚が出てくる詩だ。食べられたイカの立場を想像し、その魚を食べようとしている自分に気づくところがいい。いただきますという言葉の意味を思い出させられた。
 優秀賞・後藤ゆうひさん「静かに暮らしていたのに」は、原発事故で福島から避難してきたいとこの心情を描いている。大人の都合に翻弄されるいとこを思いやる気持ちと、静かな憤りが読む者の胸に迫ってくる。優秀賞・佐藤大空君「後をついていくと」は、じいちゃんの後にくっついていってコンバインを運転する姿を描いたもの。じいちゃんの横顔をカッコいいと思うその目は、きっと輝いていたことだろう。
 特別賞・佐藤佑香さん「蝉」は、「蝉が嫌いだ」で始まる風変わりな一編。嫌いなはずの蝉をよく観察しているし、しまいには自分の姿を重ねて考察するところをみると、実は好きなのでは? 特別賞・高橋怜央君「祖父」は、ずっと会えなかった祖父母を訪ねる詩だが、淡々とした文章の中に互いの微妙な感情がていねいに描かれ、切々たる思いが伝わってくる。特別賞・佐藤健太君「雑草魂」は、道ばたの雑草と自分をダブらせている詩だが、雑草の立場に自分を置き替えてあれこれ考えつつ、これからの人生に訪れるであろう困難に立ち向かおうとする決意がすがすがしい。
 この他、真鍋安夕さん「晩夏」、狩野蒼馬君「ぼくの友達」、鈴木悠馬君「へびの恩返し?」、二階堂里菜さん「小さな宇宙の歌」、岩渕鈴さん「食欲の秋」、佐藤紀美加さん「ひまわり」、中村瑠南さん「風船ガム」が面白かった。来年も、私たち大人が見逃しがちな「驚き」や「発見」で、びっくりさせてほしいと願っている。