受賞作品を、原文のまま掲載します。
 また、編集の都合上、すべて横書きにしています。
※ 敬称略

原文はこちら

母が縫った頭巾とフリルの前掛け、
陽に焼け色褪せて、それでもまだ赤く、
傷ついたお地蔵様が、七月の空を行く。
切なく見上げる家族に、お顔は微笑んで。
重機の乾いた音が、まるでレクイエム。

東日本大震災、
多くの生命と生活を奪い、恐怖を与え、
いまだに不自由な生活、不安な毎日。
そして未曽有の脅威は、
安らかに眠る先人達をも容赦無く襲っていた。
風景が一変、父の生きた証の道標も崩壊。
父が好んだ桜の下、春は見事な花吹雪。
暗たんとした失意のうちに、急ぐ改葬。

作業は淡々と進む。
亀裂で塀は無残に崩れ、
倒壊した灯籠たちが、出番を待っている。
私は、泣いて震える母を引き寄せた。
今日も日射しが強いのに、冷たく侘びしい風。
四十二年前、齢四十歳で急に病で逝った父。
鳶色の瞳に白い肌、カメラと本と書道好き。
近頃二人の息子が似てきてうれしいけれど。
本当は何よりもっと生きてほしかった。
でも、もはや亡き人、眠る人。
ここでずっと震災の恐怖に耐えたのですね。
これから菩提寺に移ります。
母は、あくる日からまた縫い始める。

猛暑の八月完成、息子達がそろい墓参り。
たくさんの花を抱えてにぎやかに。
小さなお地蔵様に、深紅のフリルがよく似合い、
慈愛に満ちたその笑みは、尊い。
心が和み話も弾む。
終の住処は、もうここです。
今度こそ 心安らかにお眠り下さいな。