受賞作品を、原文のまま掲載します。
 また、編集の都合上、すべて横書きにしています。
※ 敬称略

原文はこちら

 夏が終わろうとしているのでしょう。空は高
く碧く、穏やかな湿った風が物の影の透き間を
逃げていきます。停留所を少し離れたところで、
白い小さな花飾りを拾いました。茶色のゴムバ
ンドで手首に飾るものです。花の真ん中に、木
のチップで造った花芯が張り付けてあります。
花弁は象牙色の優しい毛糸で編まれています。
手のひらに乗せたとき、チップが剥がれて落ち
そうになりました。
 この柔らかで軽い花を私の掌にとどめたの
は、その飾り物の可憐さだけではありません。
そっと手を握り「誰の手首をこの花が飾ってい
たのだろう。」と思ったとき、奇跡のようにひ
とつの小さな鳥の羽が、重さのない綿毛の一片
が、本当にゆっくりと眼の前を落ちていきま
した。直ぐに空を見上げましたが鳥はいません。
朝に起こったこの二つの出来事の間に何か関
連性があるのでしょうか。誰にも分からないこ
とです。それでも花を掌に留めることで、私は
意味を世界に創ったのです。
 昨夜君は私に聞きましたね。「人は人生で何
をすべきか」と。それはおそらく義務ではない
でしょう。何もしないことも立派な選択です。
ただ、これほど意味や驚きに満ちた世界に触れ
ることなく通過してしまうことは少し寂しく
はないでしょうか。「動いて」みなさい。そし
て待つのです。何がやって来るかはわかりませ
ん。できればその結果を楽しみなさい。それは
君だけのものです。通過した駅や、過ぎていく
夜を何処かに憶えているとしたら、それは君が
そこに形を残したからです。
 今年の夏は、はなむぐりとよく出会いました。
少し弱っていた子を割ったトマトに乗せて二
日飼いました。元気になったので栗の樹の幹に
放してあげました。それからまた一週間たって、
路でその子が死んでいるのを見つけました。
 今、はなむぐりはここに居ます。私が目を閉
じさえすれば、記憶の中でまた動きだすのです。