受賞作品を、原文のまま掲載します。
 また、編集の都合上、すべて横書きにしています。
※ 敬称略

原文はこちら

十九年前の夏はひどい冷夏だった
その年に口唇口蓋裂で生まれた君は
いつも泣いていた
抱きしめて温めても泣き止むことはなかった
三ヶ月時の手術の後に急に泣き声を止めた
重度のてんかん発作の始まりだった

何度も何度も呼吸を止め体中を真っ黒にした
マウスツーマウスをし心臓を押しながら
数え切れないほど病院へ運んだ
私には冷たい風が吹いていた
鳥の姿も星々も何もかもが遠かった
君の身体のケイレンが引き起こす残酷が
私をいつも締め付けていた
私は君がいなくなってくれることを望んだ
だけど君はあえぎながらはじめて
「おかあさん・・・・」と呼んだ
私は少し笑った

毎日が泣いたり笑ったりだった
そして今
重度の知的障害の君と笑うだけになった

ある日「よしよし・・・」と声がするので
振り向くと君はテレビの画面を撫でている
その中には泣きじゃくる子どもの姿があった
君は画面が変わってからも
いつまでも よしよしよしよしと撫でていた

ありがとう と思った
私は今何ひとつ欲しいものはない
全てが与えられていると思った
「よしよし・・・」という小さな声と
汗ばんだ手のひら
それ以上のものがこの宇宙にあるだろうか
毎日 私も耕也に頭を撫でられ
生きているように思う
よしよし・・・・よしよし・・・と